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近ツー・修学旅行「バス会社がキャンセルは通常あり得ない」と業界内から疑問

文=Business Journal編集部、協力=鳥海高太朗/航空・旅行アナリスト
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近畿日本ツーリストの公式サイトより

 修学旅行で近畿日本ツーリスト(以下、近ツー)が、手配していたバス会社から旅行直前になってキャンセルの申し入れを受けるという事態が発生。観光バス業界関係者からは「近ツーほど大手の旅行会社から仕事を受けるクラスのバス会社が、契約を破って運行をキャンセルするというのは、業界の常識的に考えられないほど異例」との声も聞かれる。背景に何があるのか。また、「2024年問題」による運転手不足の影響が広い範囲におよぶなか、同様の事態は今後も増えるのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。

 近ツーは5月に行われる中学校の修学旅行でバス会社を手配していたが、13日、そのバス会社から直前になってキャンセルの通達を受けたとしている。航空・旅行アナリストの鳥海高太朗氏はいう。

「バス会社が大手旅行会社から受けていた運行を突然断るというのは、今後の取引を切られてしまう可能性もあり、今までであれば考えられない事態です。2024年問題といわれる運転手の時間外労働の上限規制とインバウンド(外国人旅行者)増加によるバス需要増加で、バス会社が運転手を確保できなかったためと考えられますが、年単位で早い段階から予定が組める修学旅行では特異なケースであることには違いありません。

 こうしたケースは今後増加すると予想され、旅行会社が新規の団体客ツアーを獲得した段階でバスを手配できないというケースも出てくるかもしれません。観光バスに限らず、路線バスでも乗客が増えすぎて一般利用者が乗れなくなってしまい、増便もできないという事例や、ホテルで部屋は空いているものの清掃作業員を確保できないので予約受付を制限する事例など、インバウンドの“増えすぎ”による弊害はさまざまなところで起きています」

 観光バス会社関係者はいう。

「今月14日の段階で、近ツーから京都のバス会社に対しバスガイド付きの奈良行きのバス7台ほどの配車依頼が出ていた模様ですが、修学旅行シーズンの5~7月分の観光バスを今から確保するのは不可能です。特にここ数年はコロナ禍でバス会社の撤退などが相次いだ影響で、京都の観光バスは慢性的に不足しています。

 修学旅行など大口の案件では旅行会社は1~2年前から観光バスを手配し、旅行会社とバス会社の間で運送契約を締結し、エンドユーザーである団体旅行者側の事由や天候・災害などの事由を除けば、基本的にキャンセルはできないものです。バス会社は旅行直前にキャンセルを申し入れれば、相手の旅行会社からその後はもう仕事を受けられなくなるだけでなく、業界内に情報が広まり信用が失われて他の旅行会社からも受注できなくなるので、繁忙期などに他社のバス会社に代替運行をお願いするかたちで乗り切るというケースは業界の慣習としてしばしば行われています。バス会社が夜逃げ同然でキャンセルするということはまれに起きるものの、『一度受けた仕事は絶対にやりきる』というのが業界のルールです」

「ドライバー不足と国土交通省からの通達による長時間残業の見直しの影響」

 近ツーは13日付けで中学校側へ示した文書で「昨今のドライバー不足の影響により、借切バスでの運行のお断りの連絡が先日ございました」「すべてのバス会社に急遽代替のバス会社を探しておりましたが直近という事と、どのバス会社もドライバー不足と国土交通省からの通達による長時間残業の見直しの影響によりお断りされ」と説明している。

「学校側と旅行会社は修学旅行の1カ月~2週間前に旅行中の行程・スケジュールについて最終的な詰めの調整を行い、『ファイナル』と呼ばれる確認書を作成しますが、あくまで可能性の話として、その段階になるまで旅行会社側が運行バスをおさえられておらず、出発までにはなんとかなると思っていたが結局どうにもならず、バス会社からキャンセルの連絡を受けたという形にしたのではないかという見方も出ています。近ツーほどの大手で、さすがにそれはないとは思いますが、実際に旅行会社の担当者の手配ミスや手配し忘れなどでバスがおさえられていなかったというケースは、まれにですが起きることはあります」(観光バス会社関係者)

 14年、JTB中部の社員が高校の遠足で使う予定だったバス11台を手配していなかったことを隠すために、その高校の生徒を装い、自殺をほのめかしつつ遠足の中止を求める手紙を学校へ届けるという事件が起きている。

厳しいバス業界の経営

 バス業界の経営は厳しい。バス会社の倒産・休廃業などが起きており、帝国データバンクの調査によると、20年度中に発生した観光バス運行事業者の倒産は14件、休廃業・解散は32件でともに過去最多。東京商工リサーチによると、22年上半期の「貸切バス業」倒産(負債1,000万円以上)は9件で、上半期としては1993年以降の30年間で最多件数を記録した。

 バス業界の運転手不足も深刻だ。21年10月、公共社団法人「日本バス協会」が会員を対象に実施した調査によると、回答した885社のうち56%もの会社が「運転手が不足している」と回答。背景にはドライバーの長時間労働の常態化と低賃金があった。22年に厚生労働省が発表した「賃金構造基本統計調査」によれば、「バス運転者」の平均年収は約399万円と、日本人の平均年収より低い。21年に労働局、労働基準監督署が監督指導を行ったバス業界103社の事業場の約6割で労働基準関係法令違反が認められた。

「バス運転手は以前から長時間拘束を強いられてきました。運転手は早朝便から夜間便まで長時間運転し続けなければいけないので、生活サイクルが崩れてしまうのです。そのうえ休日出勤もあるため不規則な出勤スケジュールとなったり、休日がなかなか取れず、福利厚生も十分ではなかったりとネガティブな面が目立つので、多くの人が敬遠して人手不足になるのでしょう。

 また賃金構造が全産業のなかで低い傾向にあることも大きな原因。バス業界は、重労働であるにもかかわらず賃金が安いため、若者や子どもを育てる壮年世代は入りづらい構造となっています。しかもアイドルタイムを休憩時間に設定して、その間の賃金を支払わないケースも少なくありません。実質的な拘束時間が長いわりに賃金が見合っていない職業といえるのです」(桜美林大学航空・マネジメント学群教授の戸崎肇氏/23年5月2日付け当サイト記事より)

 そこに「2024年問題」が重なる。24年4月からトラックドライバーやバス運転手など自動車運転者に働き方改革関連法に基づいた時間外労働の上限規制が適用され、時間外労働の上限が年間960時間未満に制限される。これにより広い領域でドライバー不足が発生しており、横浜市営バスは4月から367本の運行を削減し、小田急バスは3月に一部路線を廃止・減便。長野ではバス会社が一部路線の日曜運休に踏み切るといった事象が起きている。

「観光バスの運転手についていえば、コロナで仕事がほぼゼロになり、トラック運転手など他の職種に転職した人も多い。転職してから2~3年たって新しい仕事にも慣れ、低賃金のバス運転手よりは給料が良かったり、苦しい特に拾ってくれたという今の職場への恩もあったりして、なかなかバス運転手の仕事に戻ってきません。コロナが落ち着いて観光需要が回復したところにインバウンドが急増している一方で、運転手はまったく足りていないわけです。

 さらに時間外労働の上限規制が始まり、実際にドライバーの残業は減っており、結果的に人手不足という状態になっています。貸切型の観光バスは受注数を減らすなりして運転手の労働時間を比較的コントロールしやすいですが、路線バスのほうは大幅に路線を減らすなどしないと回らない状況で事態は深刻です」(観光バス会社関係者)

(文=Business Journal編集部、協力=鳥海高太朗/航空・旅行アナリスト)

鳥海高太朗/航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師

鳥海高太朗/航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師

航空会社のマーケティング戦略を主研究に、LCC(格安航空会社)のビジネスモデルの研究や各航空会社の最新動向の取材を続け、経済誌やトレンド雑誌などでの執筆に加え、テレビ・ラジオなどでニュース解説を行う。2016年12月に飛行機ニュースサイト「ひこ旅」を立ち上げた。近著「コロナ後のエアライン」を2021年4月12日に発売。その他に「天草エアラインの奇跡」(集英社)、「エアラインの攻防」(宝島社)などの著書がある。
鳥海高太朗の公式サイト

Twitter:@toriumikotaro

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