マンガアプリ「会社側が永続的に独占利用」→漫画家が修正求めると連載中止に

宇津江広祐氏の公式Xアカウントより

 漫画家・宇津江広祐氏がマンガアプリ「GANMA!(ガンマ)」で新連載の開始が決まり数話分を書き溜めていたところ、GANMA!側から提示された契約書に「契約を終了したとしても」「会社側に作品の独占的な利用を永久的に継続される」(宇津江氏のX上へのポストより)という記述があり、弁護士に相談した上で会社側に修正のお願いをしたところ、会社側から連載中止を伝えられたという出来事が注目されている。宇津江氏は「契約書をめぐって妥協できず決裂した、という話ではないです。修正点に対して、協議すらしていないので…」とも嘆いているが、背景には何があるのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。

 GANMA!はコミックスマートが運営するマンガ配信サービス。アプリのダウンロード数は累計1800万を超え、ブームになる前のオリジナル新作マンガを意欲的に掲載している点が特徴。連載中のオリジナルマンガは第1話から最新話まで全話無料で読むことができる。

 宇津江氏は2016年に『スペースシアター』で第61回ゲッサン新人賞佳作受賞。17年にデビューし、18年に「サンデーうぇぶり」(小学館)でパニックホラー漫画『内藤死屍累々滅殺デスロード』を連載。21年から「ゲッサン」(同)で『LIFE MAKER』を連載中。

 その宇津江氏は今月7日、X上に「GANMA!さんのアプリで、10月か11月中には新連載の開始が決まっていたのですが、連載が取り消しになりそうです」とポストし、以下のように経緯を報告した。

「契約書を送ってもらい確認したとき、契約書の内容が漫画家から様々な権利を奪う内容に思え、全体的に違和感がありました」

「契約を終了したとしても、なぜか会社側に作品の独占的な利用を永久的に継続されることになっている」

「弁護士に送ってもらった内容を編集者にそのまま伝え、修正をお願いすることに」

「一度も契約書の修正について協議もすることもなく急に『いただいた契約書の修正にはお答えできない結論になりました。』『本作品の取引を中止したい』と連載ごと中止させられると連絡が来ました」

 宇津江氏は連載決定を受けてこの半年間、原稿3話分の計135ページに加え、4話以降のネームなども制作していたといい、GANMA!側からは3話分の原稿料は支払うと伝えられたものの、「半年以上も貯金を切り崩して連載用に作業をし続けていたので、さすがに生活的にも心理的にも厳しい……」と吐露している。

弁護士「全く理解できません」

 GANMA!側が締結しようとしていた契約書の内容について、山岸純法律事務所代表の山岸純弁護士はいう。

「『契約を終了したとしても、会社側に作品の独占的な利用を永久的に継続されることになっている』部分ですが、主語述語があいまいなのでやや回答しにくいところですが、『会社は、契約終了後も作品の著作物の複製、販売等ができる』という意味であれば、契約によって著作物の利用が可能となるわけですから、契約終了後も利用できる、というのは全く理解できません。ここでもし、契約の内容が『著作権を譲渡する』とされているのであれば、考えられなくもないですが、契約を終了するということは、売買のように単発の契約ではないわけですから、譲渡を内容とするものではないでしょう。作家さんと出版社の力関係を背景に、あわよくば不当に著作物を搾取しようとしたと勘繰られてもしかたない内容です」

 大手出版社社員はいう。

「この契約書の詳細が分からないのと、契約内容は出版社によって異なるため、あくまで一般的な話ですが、出版物については著作権は執筆者である作者に所属し、出版社は著作物の出版権を有するというのが基本的な考え方です。なので、作者の同意なしに出版社が作品に手を入れて修正や変更を行うということは許されません。この出版権には出版社によるネット配信なども含まれますが、出版契約の有効期間内に限られます。

 出版社と作者が揉める要素があるとすれば、契約終了後も著作権は作者に所属し続けるものの、作者が出版された作品をそのまま別会社から出版したりネット配信する際には、事前に最初の出版社から承諾を得なければならないとなっているのが一般的である点でしょうか。権利うんぬんとは別の次元の話として、出版社は作品を出版するために一定のコストと労力を負担しているので、それを他社がタダ乗りして出版されると、自社の出版物の売上・利益を食われてビジネス的に損失を被る可能性があるためです。この条項について、より出版社が有利な内容に変更されているために、作者と揉めるというケースはあるかもしれません」

 社団法人 日本書籍出版協会が提供している出版契約書の雛型では、「本出版物の利用」の条項に次のように記載されている(以下、「甲」は著作権者=作者、「乙」は出版権者)

<(1)甲は、本契約の有効期間中のみならず終了後であっても、本出版物の版面を利用した印刷物の出版または本出版物の電子データもしくは本出版物の制作過程で作成されるデータの利用を、乙の事前の書面による承諾なく行わず、第三者をして行わせない。
(2)前項の規定は、甲の著作権および甲が乙に提供した原稿(電磁的記録を含む)の権利に影響を及ぼすものではない>

GANMA!「原稿を受け取っても出版社に掲載義務はない」

 宇津江氏は「原稿を受け取っても出版社に掲載義務はないという記述があり、これは著作権法81条からしておかしい」とも綴っているが、前出・大手出版社社員はいう。

「一般的な出版契約には、このような記述はないと思われますし、私自身も見たことはありません。このアプリ運営会社が独自で設定している条項なのかもしれません。作家さんから送られてきた原稿のなかに名誉棄損や差別的表現に該当する恐れのある表現があったり、トラブルを招く懸念がある表現があった際に、作家さんに理由を説明して修正の相談をするということは、日々のやりとりのなかでありますが、原稿を受け取っても掲載の義務はないと契約書に記載するというのは、ちょっと特殊であると感じます。また、『出版社に掲載義務はない』という考え自体も、出版業界のなかで広く共有されているものではありません」

 当サイトはGANMA!を運営するコミックスマートの公式サイト上の問い合わせフォームより、同社の見解について問い合わせ中であり、回答を入手次第、追記する。

(文=Business Journal編集部、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表)

山岸純/山岸純法律事務所・弁護士

時事ネタや芸能ニュースを、法律という観点からわかりやすく解説することを目指し、日々研鑽を重ね、各種メディアで活躍している。芸能などのニュースに関して、テレビやラジオなど各種メディアに多数出演。また、企業向け労務問題、民泊ビジネス、PTA関連問題など、注目度の高いセミナーにて講師を務める。労務関連の書籍では、寄せられる質問に対する回答・解説を定期的に行っている。現在、神谷町にオフィスを構え、企業法務、交通事故問題、離婚、相続、刑事弁護など幅広い分野を扱い、特に訴訟等の紛争業務にて培った経験をさまざまな方面で活かしている。
山岸純法律事務所

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