ワタミ、なぜブラック批判の矢面?批判弱まるユニクロとの明暗分けた、情報開示の姿勢
●ワタミとユニクロ、その対照的なスタンス
ではその差異につながった要素とは何か?
ここではまず、インタビューに対する両社の対応の違いを見てみよう。
(1)取材対応姿勢
・ユニクロ:(運営元であるファストリ)柳井正会長が積極的に対応
・ワタミ:当初、広報は「答えたくない」との回答。その後、交渉を重ね、結果的に「桑原豊社長の手記を掲載」するかたちで妥結
(2)回答内容
・ユニクロ:柳井会長が考える人材教育や、グローバル市場で勝つための方策について
・ワタミ:「ありがとうツアー」「みんなの夢アワード」「社員独立制度」について
(3)ブラック企業批判に対して
・ユニクロ:
「急成長のひずみがあったことは確か。修正すべき点があった」
「離職率5割はさすがに高い。我々は店長の技術ばかり教育していた。これが一番の問題であり、失敗だと思っている」
「我々が本当にブラックなら、社員は辞め、会社はダメになっているはず。情熱を注いで働く社員がいるから結果が出ている。だからこそ、根本的に向いていない人には入社してほしくない」
・ワタミ:
「ビデオレターでコミュニケーションをとっている」
「離職率は業界水準からみると高くない」
「労働環境は格段によくなった」
だいぶ要約したが、このような内容であった。両社とも、世間での「ブラック批判」に対して反論したいと考えていた。しかも、「自社のスタンスをきっちり知ってもらわないと、反論の一部だけを切り取られて違った解釈をされてしまう」と懸念していたところまで同じだ。
しかし、その後の行動が違った。ユニクロは、向き合って説明した。
「我々はこういう企業である」
「我々は過去のやり方を反省して見直している」
「我々は今こんな努力をしている」
ということを、総合的に訴えたわけだ。
一方のワタミは、反論しなかった。創業者で同社会長である渡邉美樹氏は「我々のことがちゃんと伝わっていれば、週刊誌のくだらない記事など『くだらない』で終わるはず」と考え、「事実とは違う批判をされること自体が問題である」という態度をとったのだ。そして、前述のとおり「ワタミはブラック企業」というイメージがひとり歩きする結果となった。外食業界には、同社よりもっとひどい実態の企業はほかにも多数あるというのに。採用時に期待を高めすぎることによって、入社後に感じるギャップや失望感が大きくなるということもあろう。
●「RJP」の大切さ
ブラック企業という評判(風評被害含む)に対して有効な対策は、以下のとおりシンプルである。
「評判に対して真摯に向き合う」
「事実は事実として認めて、実態を明らかにする」
「疑問や懸念を、個別に回答することで払拭する」
実際、明らかにブラックな労働環境であっても、採用時に「RJP」(Realistic Job Preview/組織の良い面だけでなく、悪い情報も含めて事実を誠実に伝えること)を行っている会社では、社員の定着率も高いことが確認されている。
目立つブラック企業だけを叩いても、根本的な問題解決にはならない。法制も必要だが、まず企業側で情報開示のスタンスを徹底することで、入社後に「こんなはずじゃなかった」と感じる人を少しでも減らしてほしいものである。
(文=新田 龍/株式会社ヴィベアータ代表取締役、ブラック企業アナリスト)