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IVS2025 LAUNCHPAD:熱狂と革新が交差、異彩放つアドバンスコンポジットとは?

2025.07.07 2025.07.07 17:20 企業

IVS Launchpad 2025:熱狂と革新が交差、異彩放つアドバンスコンポジットとは?の画像1

●この記事のポイント
・7月2日から4日、スタートアップカンファレンス「IVS2025」が開催され、そのなかで特に注目を浴びたピッチイベント「IVS LAUNCHPAD」で、アドバンスコンポジットが優勝した。
・聴衆を引き付けるピッチが多かったなかで、特に異彩を放ったアドバンスコンポジットのAKIYOSHI氏は、秘書という立場で自社の技術を熱く紹介した。

 7月2日から4日にかけて開催された国内最大級のスタートアップカンファレンス「IVS2025」は、大盛況のうちに幕を閉じた。なかでも最も注目を集めたイベントが「IVS LAUNCHPAD」だ。過去487社が登壇し、そのうち60社以上が上場やM&Aによる大きな成果を上げ、資金調達総額は3000億円を超えるなど、数々の成功事例を生み出してきたこの舞台で、今年も15社のファイナリストが7月3日に熱いピッチを繰り広げた。

異彩を放ったトップバッター「アドバンスコンポジット」

 今年のLAUNCHPADでひときわ異彩を放ったのが、トップバッターを務めたアドバンスコンポジットだ。目深に帽子をかぶり、眼鏡にマスク姿で登場した「AKIYOSHI(あきよし)」と名乗る男性は、本名も明かさず、社長に内緒で応募したという。だが、自身の会社が持つ「溶湯鍛造法」という新素材技術を熱く紹介した。

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 特に聴衆の度肝を抜いたのは、そのパフォーマンスだ。「アドバンスコンポジットを応援するか、年間300日電気を使わない生活をするか、どちらかを選べ」と迫る強烈な問いかけに、会場全体が彼のペースに飲み込まれた。エアコンの大規模な節電を可能にするという新素材の圧倒的な可能性と、それを実現する世界唯一の技術に対する自信が、そのクレイジーとも言えるプレゼンテーションに説得力を持たせていた。

多様な分野で未来を切り拓くファイナリストたち

 AKIYOSHI氏の鮮烈なプレゼンテーションに続き、登壇した各ファイナリストもまた、それぞれの分野で未来を切り拓く革新的なアイディアと技術を披露し、会場を沸かせた。

カーボンフライは、同社が開発した革新的技術を搭載したCaltemaによりカーボンナノチューブの大量生産を可能にし、夢物語とされてきた宇宙エレベーターの実現を目指す壮大なビジョンを語った。

JOYCLEは、「ゴミを運ばず、燃やさず、資源化する」という、環境問題への新たなアプローチを提示。独自のJOYCLE BOXとデータ可視化システムで、持続可能な社会の実現に貢献しようとしている。

CoLabは、AIロボットによる動作生成技術で、これまで人手に頼らざるを得なかった組み立て作業の自動化に挑む。日本のものづくり産業が抱える人手不足という喫緊の課題解決に貢献する。同社は5位を受賞。

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匠技研工業は、工場の経営をDXする「匠ホース」で、ものづくり産業にAI革命を起こすと宣言。製造現場に眠る膨大なデータをAIで解析し、業務効率化と技術承継を支援する。

スナックテクノロジーズは、2兆円産業とされるスナック業界のDX化に着手 。ITを活用し、顧客と店舗双方の課題を解決することで、日本の夜の社交場を活性化させようとしている。まるでお笑い芸人のごとく会場を笑いの渦に巻き込み、「オーディエンス賞」を獲得したその話術は圧巻だった。さらに4位を受賞している。

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CGOドットコムは、ユニークな「ギャル式ブレスト」で会議の空気や忖度を打ち破る。固定概念に縛られない自由な発想を促し、組織のイノベーションを加速させる。独特のテンションで聴衆を盛り上げ、“ギャルマインド”とは何かを刷り込んだ。特別審査員の三田紀房氏が自身の代表作である漫画に登場する権利を与える『インベスターZ賞』に選定。

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Bocekは、スライド作成や情報検索を自動化する生成AIエージェント「Taskhub」を開発。AIアプリを簡単に作成できるプラットフォームを提供し、あらゆる業務の効率化を目指す。

ZORIは、企業の調達部門が抱える複雑な課題を解決するソリューションを提供。AIとデータ活用で、最適なサプライヤー選定や交渉力向上をサポートし、企業の利益に貢献する。

Aveteは、AIと衛生データ、Deep Learning、Generative AIを組み合わせた「World’s First Construction Safety Ecosystem」で建設業界の安全性向上に貢献。事故要因の解析や作業員のトレーニング支援を通じて、建設現場の変革を促す。

Dentscapeは、歯科技工士の技術をAIで自動化する画期的なシステムを開発。患者の口腔内をCADで3D化し、義歯の高性能な作成を可能にすることで、歯科医療の未来を変える。

Creator’s Xは、日本のIP業界が抱える課題に切り込み、AIを活用したアニメ制作と企業経営のアップデートを提案 。アニメーターの労働環境改善と業界全体の生産性向上を目指す。その革新的なアイディアが評価され、3位を受賞した。

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Wunderbarは、AIとデータを活用したIPマーケティングプラットフォーム「Skettt」を提供し、広告業界に新たな選択肢をもたらす。タレントの広告活用を民主化し、効果的なプロモーションを支援する。

天地人は、宇宙の衛星データとAIの力で地球の水道インフラを守る「宇宙水道局」を紹介。漏水リスクの診断や調査計画の最適化により、水道管の老朽化という社会課題の解決に貢献する。審査員からも名指しで高い評価を受けていたが、惜しくも2位。

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ハチドリソーラーは、太陽光発電システムに革命を起こす「Zero Solar」サービスを展開。屋根が発電所に変わる未来を目指し、家庭の電気代削減と地域全体の電力供給力向上を実現する。

 これらの革新的なプレゼンテーションの数々が、LAUNCHPADが持つ夢と可能性を十二分に示していた。

最優秀賞に輝いた「アドバンスコンポジット」AKIYOSHI氏インタビュー

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AKIYOSHI氏

 激戦を制し、見事最優秀賞を受賞したのは、トップバッターとして強烈な印象を残したアドバンスコンポジットのAKIYOSHI氏だった。受賞直後の彼の率直な感想と、今後の展望について話を聞いた。

——Launchpad優勝、おめでとうございます。率直な感想をお聞かせください。

AKIYOSHI氏 まだはっきりと実感が湧いていません 。本当に今年は接戦だったと思います 。正直、僕自身のプレゼンの出来は、だいぶ飛ばしてしまいましたし、ここに立てたのは幸運だったと思います。ありがとうございます 。

——今回のプロダクトサービスの強みについて、改めて教えてください。

AKIYOSHI氏 はい、今回は「溶湯鍛造法」というサービスで登壇させていただきました。これは「新素材ができました」というものではなく、「ありとあらゆる新素材を作ることができる技術」です。1種類、2種類、3種類だけでなく、10種類、100種類、1,000種類と、多様な新素材を作れることが一番の強みです。

——今後のプロダクトの展望はありますか?

AKIYOSHI氏 はい、エアコン以外にも、例えば半導体の放熱や宇宙分野など、まだまだできることはたくさんあります。ただ、どうしても弊社のリソースでは、そのすべてを一気に量産化することができない状態なので、そこを改善していけたらと考えています。

——今回の賞金の使い道は?

AKIYOSHI氏 まず、とりあえず今回、自腹で来ているので、僕の交通費ですね(笑)。それをどうにかしてもらうように交渉しようと思っています。真面目な話をすると、今、人を一気に増やしています。理由は、やはりリソースでボトルネックになっているところがあったからです。そちらに充てるか、もしくは特許100件以上を数年以内に取得するというお問い合わせもあるので、そちらになるんじゃないかなと思います 。

——今後挑戦される方やスタートアップの皆さんにアドバイスをお願いします。

AKIYOSHI氏 先ほども少しお伝えしたように、僕はもう勝手に動いています。2年前に弊社が資金調達を必要とした際、今の会社の状態はまずいと思って勝手に動き始めました 。それで2年経って、資金調達も成功しましたし、今、この話ができている。1年、2年で何が起きるかわからない世界だと思います。だから、どんどん外に出て、どんどん挑戦をすることをぜひやってもらいたいです。

——審査員からのコメントで印象に残っていることはありますか?

AKIYOSHI氏 「クレイジー」という言葉ですね 。アドバンスコンポジットのここがすごい、みたいなコメントの中に、「素材の会社、ここいいですね。アドバンスコンポジット」というのもありましたが、弊社の何がすごいかというと、クレイジーしか言われてないような気がします(笑)。

——ご自身のプレゼンの評価は?

AKIYOSHI氏 実はリハーサルの方がはるかに良かったです。リハーサルを100点とすると、本番は60点か50点でした。せき込んでしまいましたし、かみまくってしまったりしたので。プレゼンに関しては本当に反省した点ですね。

——IVSはどんな場でしたか?

AKIYOSHI氏 こんなにたくさん関わる方がいて、しかも今回、グローバルステージもあって、どうしてもこのマイナーなジャンルなので、今後はわかりませんが、やはりスタートアップの場に行っても分かる方が少ない、同業の方が少ないということがある中で、こういう場で人が集まるようになっているのが、すごくありがたくて良いことだと思います 。

——社長からの言葉は?

AKIYOSHI氏 最初は「それ出て意味あるの?」と言われました 。その後、弊社のベンチャーキャピタルの人とかが、「IVSのLAUNCHPADに出場するだけでもすごいことですよ」とサポートしてくれて 。それで、今日「優勝してきてね」と言われました 。それが達成できて、本当に良かったです。

——会社には何人くらいの社員がいらっしゃるのですか?

AKIYOSHI氏 50人弱くらいですね。この半年で15人増えました。ジャンルとしては開発の資材がメインです。

——人材はどこから集まってくるのですか?

AKIYOSHI氏 15人の採用は面白いんですよ。弊社の社長の採用方針が「シニアを取る」なんです。もちろんシニアだけではないのですが、理由は良い知見を持っているからです。普通、田舎の町工場にそういう人は来ないのですが、そういう方に積極的に来てもらっています。メーカー出身の方が多いですね。

——AKIYOSHIさんの社内での立場は?

AKIYOSHI氏 バックオフィスの何でも屋です。かつ、勝手に動いている人です。勝手に動いて、後で社長に報告して「え?」みたいな感じです。役員ではないです。一般社員です。

——アドバンスコンポジットは何の会社ですか?

AKIYOSHI氏 新素材の研究開発の会社です。研究開発、製造までやっています。厳密には金属基複合素材、Metal Matrix Compositesの研究開発製造です。

——優勝したことで会社での立場や応援され具合は変わってきそうですか?

AKIYOSHI氏 変わらないんじゃないですかね。お土産を要求される値段が上がるとか、そういうのはあるかもしれませんが(笑)。社長には決勝に残る前に言いました。それ以外の人は、決勝に残ってからしか言っていません。この能力はめちゃくちゃレアだと思うんです。怒られるくらいで済むならやっちゃえばいいと思っています。

——ご自身については?

AKIYOSHI氏 今後、会社が上場などを考えていくにあたって、投資家の方など様々な人が増えてきますよね。この実績を持っている人間は良いコマーシャルになるので、必然的にそういう方面の仕事が増えてくるんじゃないかなと思っています。それは結構レアな業務なので、個人的にもやりたいなと感じています。

 IVS LAUNCHPADは、単なるピッチコンテストではなく、新たな技術やアイデアが社会を変革する可能性を秘めていることを示す場であり、参加者にとっては刺激とインスピレーションに満ちた体験となった。アドバンスコンポジットのAKIYOSHI氏の優勝は、その熱気と面白さ、そして夢と可能性を象徴する出来事といえるだろう。

(文=UNICORN JOURNAL編集部)