ウルトラC「取引支払いの猶予」
困ったのは他の大株主である日立、三菱、及び両社の取引銀行であるみずほ銀行、三菱東京UFJ銀行だ。前出の金融筋は、
「ルネサス問題の早期決着を図りたい三菱Uは、NEC抜きのスキームも模索したが、日立、三菱としては“3社による”共同支援が条件。三菱Uと三井住友の間に立たされたみずほが必死に説得に回った」
と語るように、結局NECは、ルネサスになんらかの支援をするとの方針を、6月下旬に表明した。
ルネサス再建の骨子こそ決まったものの、NECの正念場はこれからだ。親会社3社で500億円を融資すると伝えられているが、NECだけは直接融資でなく「ルネサスとNECの取引に関する支払いを猶予する」という、ウルトラCの秘策を打ち出している。「何かできることはないかと考え抜いた末」(NEC関係者)というが、ここでもNECの窮状を改めて浮き彫りにした。
CDSも過去最高値圏
株価もルネサスの再建に道筋が見えた6月下旬には、120円台後半まで持ち直したが、7月11日の終値は107円と低迷する。企業の信用リスクを取引するクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)市場では、NECの保証料率が5%を超え(7月上旬)、過去最高値圏にある。CDSは社債が満額で償還されない場合に備えて、損失を回避するための金融商品。つまり、市場は依然として「NECは、いま土壇場にいる」とみているようだ。
人員削減など構造改革に取り組む一方で、IT事業を強化するため、米国や豪州で相次いで事業買収に乗り出すなど、本業では攻めの姿勢を見せる。
ルネサス問題という「爆弾処理」の計画が、もし画に描いた餅に終わったら……。NECの「綱渡り経営」は、まだしばらく続きそうだ。
(文=江田晃一/経済ジャーナリスト)