鰻の成瀬、開業わずか2年半で360店舗超の急成長の秘密…飲食チェーンの常識を逸脱

●この記事のポイント
・鰻料理チェーン「鰻の成瀬」、2022年9月の1号店オープンから2年半で360店舗以上となる急成長
・運営元は、これまで飲食業態未経験であり、店舗ごとの内装・外装はバラバラ
・国内では店舗網を拡大する計画はない。オーナー間で競合が発生することを避ける。
高級食材である鰻(うなぎ)をリーズナブルな価格で味わえるとして人気が高まっている鰻料理チェーン「鰻の成瀬」。2022年9月の1号店オープンから、わずか2年半で360店舗以上となる急成長を遂げている。実は運営元のフランチャイズビジネスインキュベーション(FBI)は、これまで飲食業態未経験であり、取得した居抜き物件に最低限の改装を施して開業するため店舗ごとの内装・外装がバラバラであったりするなど、外食チェーンの常識にはとらわれない経営を展開。また、スケールメリットを発揮すべく拡大路線を続ける飲食チェーンも少なくないなか、これ以上は大きく店舗を増やす計画はないという。なぜ「鰻の成瀬」は極めて短期間で急成長を遂げることができたのか。FBI社への取材を交えて追ってみたい。
●目次
ブルーオーシャンの市場
専門店では3000~4000円以上することも珍しくない鰻重を、1600円(並/梅)からという低価格で提供する「鰻の成瀬」。すでに鰻料理店が数多く存在するなかで、なぜ参入を決めたのか。
「弊社はフランチャイズブランドの立ち上げやフランチャイズを展開されたい方の支援をしていたのですが、より深い支援を行えるようになるために自社でもフランチャイズブランドを立ち上げることになったのが、きっかけです。商材を探しているなかで、ある商社が『うなぎ』のフランチャイズブランドを拡大したいと相談にこられ、いろいろと話をさせていただいているなかで協業というかたちでブランド展開をしていくというかたちになりました。こうして、それまで飲食店業態の経験がなかった弊社が鰻料理チェーンに進出することになったというのが経緯です。
また、鰻は多くの日本人に愛されている食べ物である点や、鰻店は“見かけたから入る”タイプの店ではないので、お客様にわざわざ足を運んでいただけるような施策を打てば一定の来客数を見込めるのではないかと判断したという点もあります」
チェーン店としては稀にみるほどの速いスピードで急拡大した要因は何か。
「鰻という商材は老舗店がとても多く、新規参入の店舗はあまり多くはなく、地元に根付いて地域のお客様を抱えている店がほとんどでしたので、逆にいうとマーケティング的な視点でいえばブルーオーシャンの市場であったというのが一つ目の要因です。2つ目が、店舗オペレーションが比較的軽く、一次加工をした鰻を店舗に配送することでアルバイト店員でも上手に調理できる仕組みをつくることができるという点です。
場所を問わず出店できたという要因も大きいです。鰻は目的食なので、お客様は『鰻が食べたい』という明確な目的を持って店舗を探して足を運ぶので、わざわざ目につくような場所に出店する必要がありません。住宅街にあるような飲食店やコンビニエンスストアが撤退した居抜き物件に、低い初期投資で出店することができました。商業施設や駅前などへの出店は最近になってからです」
店舗の改装にお金をかけない
飲食チェーンとしてユニークな手法などを取り入れたりはしているのか。
「弊社はもともと飲食業態は未経験でしたので、何がユニークな手法なのかが分かっていませんでした。一般的に同一のチェーンであれば、店舗間で外観・内観に統一性がみられますが、弊社は居抜き物件をそのまま使っていますので、前が寿司店の店舗にはカウンター席があったり、元がピザ店の店舗はモダンな内装になっていたりしており、統一されているのはロゴくらいです。看板のイメージやお店の雰囲気は基本的にはオーナーさんに任せてやっていただいています。店舗の改装にお金をかけるよりも、より低価格で美味しい鰻を提供したほうがお客様にとっても満足度の向上につながるのではないでしょうか。
ですので、いまだにチェーン店だと認識されていないことも多く、『なんか地元にいいうなぎ屋ができたらしい』という噂が広がって、地元の方々に愛されるというような受け入れられ方が良いと考えております。『ここは、鰻の成瀬です』ということを打ち出す気はあまりありません」
日本では鰻の確保が難しいといわれているが、300店舗以上で消費される大量の鰻をどのように調達しているのか。
「店舗数が増えてきたこともあり、1種類に絞っていると確保が難しいため、3種類の鰻を取り扱っています。関税などの影響も懸念されるため、リスク分散の観点からも3種類を取り扱っています。商社と一緒に品種の選定や在庫確保に動いており、養殖場のISO取得やHACCP(ハサップ)導入の状況なども確認しながら品質を担保するよう取り組んでいます」
長く地元の方々に愛されるお店づくり
同社は集客のツールとしてLINEを積極的に活用している。
「これに関しては本部が主導するかたちで、オーナーさんに導入いただいています。本部のほうで利用状況を分析して、週単位で各店舗のお友達数がどれだけ増えたかを全店に公表しています。例えばオーナーさんからの『1周年なので、こういうお祝いをしたい』といった相談には本部としても応えますし、一緒に取り組んでいくというスタンスです。オープンから1年で一店舗あたり数千人のお友達がおり、メッセージ開封率もとても高くなっています。定期的に割引クーポンを配布するといったことはあまりしていないのですが、それでも開封率が高いというのは、質の高いお友達の方々にフォローいただいていると考えております」
意外にも同社は今後、店舗数を大きく拡大させていくつもりはないという。
「国内に関していいますと、ここから大きく拡大する計画はありません。私たちの本来の目的は『鰻の成瀬』が拡大することよりもオーナーさんが儲かることなので、これ以上店舗数が増えるとオーナーさんの間で競合が発生してしまう恐れがあり、それを避けるということは非常に大事なポイントだと考えております。地元の方々に愛されるお店づくりを重要視しており、廃業率を上げることは避けるべきなので、なんらかの事情でオーナーさまが経営を続けられないとなった際には、他のオーナーさまを見つけることで、できるだけ長く地元の方々に愛されるお店づくりができるようにサポートしていく方針になっています。一方、海外出店に力を入れておりまして、数カ国で出店を進めている状況です」
そんな同社が現在、力を入れているのが地方活性化だ。
「フランチャイズの力で日本の隅々まで元気にしていきたいという思いがあり、昨年の夏には本社を東京から滋賀県の高島市に移しました。弊社代表の山本の地元で人口約4万5000人の自治体ですが、そこで地域活性化に取り組み、その手法を全国に広げていきたいと考えています。地方自治体や地元企業さんと組んで新メニューを開発したり、地元が活性化していく取り組みを進めて、地方創生に寄与していく施策を計画中です」
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)











