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最終章を迎える日本橋の大規模再開発、期待と不安…「トーチタワー」ですら安泰ではない?

2025.08.18 2025.08.17 12:58 企業
最終章を迎える日本橋の大規模再開発、期待と不安…「トーチタワー」ですら安泰ではない?の画像1
「Unsplash」より

●この記事のポイント
・東京駅の東側、八重洲・日本橋の再開発が進んでいる。28年には高層ビルとしては日本一の高さとなる「トーチタワー」が開業予定。
・東京23区のオフィス供給過多も懸念されているなか、八重洲・日本橋の再開発の先行きを不安視する見方も
・IT系のテナントで埋まりコンセプトが明確な渋谷の再開発とは対照的

 東京駅の東側、八重洲・日本橋の再開発が進んでいる。2023年に「東京ミッドタウン八重洲」が本格開業し、28年には高層ビルとしては日本一の高さとなる「トーチタワー」が開業予定。日本橋1丁目中地区でも超高層ビルが開業予定であり、日本橋エリアは地下道や地上デッキなどで八重洲方面と連結。2030年代に入ると日本橋川沿いの再開発事業が相次いで展開され、2040年をメドに日本橋の上にかかる首都高速道路の高架が撤去され、日本橋は大きく生まれ変わる。だが近年、丸の内や渋谷、虎ノ門をはじめ東京23区では大規模な再開発が進み超高層ビルが数多く開業してきたこともあり、オフィス供給過多も懸念されている。そうしたなかで今後次々と高層ビルがオープンする八重洲・日本橋の再開発の先行きを不安視する見方も少なくない。果たしてディベロッパーの計画どおりにことは進むのか。そして、街全体がどのように変貌するのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

●目次

日本橋と八重洲、三越前がつながりを持つかたちで一体感

 まず、丸の内・八重洲・日本橋という東京駅周辺の再開発について、不動産業界ではどのように認識されているのか。不動産事業のコンサルティングを手掛けるオラガ総研代表取締役の牧野知弘氏はいう。

「主に三菱地所などが中心となって進めてきた丸の内側と、三井不動産や東京建物などが進める八重洲・日本橋側の再開発は、別個のものと認識されています。丸の内側と八重洲側のテナントは従前からかなり差があり、賃料水準にも少なからず格差がありました。八重洲仲通りと丸の内仲通りを比較していただくと分かりますが、八重洲が丸の内と同じような街づくりを目指してきたのかといえば、少し違っており、八重洲はどちらかというと下町的・庶民的なエリアであり、丸の内とはテナントの属性も異なります。ただ、三井不動産や東京建物は今、丸の内に対抗するかのように超高層の複合施設の建設を進めているという印象があります。

 八重洲は大きなビルとしては東京ミッドタウン八重洲が開業したばかりであり、三菱地所が中心になって開発を進めてきた丸の内、大手町、有楽町といったエリアが持つような付加価値の創出は、これからの話であると考えています」

 今後開発が本格化する日本橋は、どのように変貌していくのか。

「日本橋と八重洲、三越前がつながりを持つかたちで一体感が出てくると思います。日本橋はもともと古いオフィス街、商業街でありますが、開発によってオフィス街としての地位は一段上がってくるでしょう。ただ、三井不動産や東京建物が八重洲・日本橋に京橋、三越前を加えたエリアをどういうふうに開発していくのかというコンセプトをみると、超高層建物を建てて、そこにホテルや商業施設を組み合わせた複合施設、国際交流拠点を開発するという内容であり、このエリアでコアとなる産業やオフィスとしての新しい付加価値をどのように生んでいくのかが見えづらいという印象を受けます。ディベロッパー各社が発表しているテーマや戦略を見ても、テンプレート的な内容しか掲げていません。 

 例えば東京ミッドタウン八重洲も当初はテナント集めに苦戦したといわれており、入居しているテナントの構成を見ても、とりあえず大企業を他のビルから引っ張ってきたという印象で、一貫したコンセプトが見えてきません。対照的なのは渋谷であり、見事なくらいにIT系のテナントで埋まっています。もともと八重洲は大規模ではない企業が多かった場所であり、そのイメージを脱却して企業を集め、どういうまちづくりを行うのかが、今のところよく見えてこないという印象を受けます。

 また、もともと薬問屋が多い日本橋には武田薬品工業やアステラス製薬があり、製薬企業に加えて宇宙関連企業なども集めて特徴を出していくといったことを三井は謳っていますが、宇宙産業はまだ収益化が進んでいない業界であり、高い賃料を負担できるのかという点も含めて、“街の色”がまだついておらず、そうしたなかでオフィスの供給だけ極端に増えていくと、どうなるかなという疑問はあります」

街としてのコンセプトが明確な丸の内・大手町との違い

 すでに渋谷や丸の内などに超高層ビルが数多く立ち並ぶなか、この先、数年の間に日本橋に相次いで超高層ビルが開業し、テナントが埋まるのかという問題もある。

「もともと八重洲は大手企業や情報通信系の新興産業などが集積する街ではなく、近くに日銀があるため地銀が支店を出したり、東京駅の前という立地から地方の企業が支社・拠点を置くというニーズが非常に強かった街です。大手企業や大手の国際法律事務所などは、やはり丸の内、大手町のビルに入るという傾向があり、丸の内・大手町は街としてのコンセプトが明確になってます。

 それに対して八重洲は、たとえば東京ミッドタウン八重洲の入居テナントを見ても、近くに本社があった老舗大企業が移ってきただけという印象があり、兜町や新川に多かった証券会社のオフィスも減ってきているなかで、日本橋に先端的な産業が多く集積するのか、そして、そうしたなかでオフィスの供給量が極端に伸びるということには、やや心配があります」

 28年に開業予定のトーチタワーも、安泰とはいえないという。

「トーチタワーのアドレスは実は中央区ではなくて千代田区なので、開発事業者の三菱地所は千代田区大手町というアドレスが欲しい大企業を積極的に集めていく考えでしょう。おそらくその他の日本橋のビルに比べると賃料水準を含めて良い条件でテナントを集めることができると思いますが、供給量がとてつもなく大きいので、あの貸付面積を綺麗に埋めるというのは、三菱地所であっても苦労するのではないかと業界内ではいわれています。日本橋に今後開業する新築のビルとの間で早くもテナントの争奪戦が始まっているともいわれていますが、そうなると本来の目標であった賃料水準を守れるのかという問題も出てくるかもしれません」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=牧野知弘/オラガ総研代表取締役)

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

オラガ総研代表取締役。金融・経営コンサルティング、不動産運用から証券化まで、幅広いキャリアを持つ。 また、三井ガーデンホテルにおいてホテルの企画・運営にも関わり、経営改善、リノベーション事業、コスト削減等を実践。ホテル事業を不動産運用の一環と位置付け、「不動産の中で最も運用の難しい事業のひとつ」であるホテル事業を、その根本から見直し、複眼的視点でクライアントの悩みに応える。
オラガ総研株式会社