花王「前髪マスカラ」異例の大ヒットを生んだ巧妙なSNS・マーケティング戦略…TikTokで信頼感を醸成

●この記事のポイント
・花王が2023年11月に発売した「前髪マスカラ」が、累計出荷数160万本を超え、マスカラとしては異例の大ヒット
・発売前からTikTokをメインにSNSを活用して、インフルエンサーなどの協力も得ながら施策を展開
・認知・話題喚起と熱量の高い生声による信頼感の醸成を図る。愛用者起点の施策が、商品への興味やエンゲージを高める
花王が2023年11月に発売した「ケープ FOR ACTIVE 前髪ホールドマスカラ」、通称「前髪マスカラ」が、累計出荷数160万本を超え、マスカラとしては異例の大ヒット商品となっている。ヘアスプレーとしてはロングセラーブランドである「ケープ」のなかで、前髪キープのために開発された商品。メインの購入者層は10~20代の女性だが、30代以上にも売れている。ヒットの背景には、花王の巧妙なSNS・マーケティング戦略がある。発売前からTikTokをメインにSNSを活用して、インフルエンサーなどの協力も得るかたちで積極的にプロモーションを展開し、SNS上でユーザが投稿した声に回答していくという地道な活動を展開。SNSでの拡散効果も後押しとなり、発売直後から同社の計画を大幅に上回る出荷数となる好スタートダッシュを切った。具体的にどのような施策を進めてきたのか。成功の要因について、花王への取材をもとに追ってみたい。
●目次
商品設計における細かな工夫
日頃、マスカラというものに馴染みがない人にとっては、なぜ「前髪マスカラ」がここまでヒットしているのか理解しづらい面もあるかもしれない。まず、いったいどのような商品なのかについて、花王に聞いた。
「『ケープ最強のキープ力』の『ケープ FOR ACTIVE』(通称:黒ケープ)シリーズから発売した、ケープならではのキープ力をもった、前髪特化型のヘアマスカラです。どんな前髪も夕方までしっかりホールドし、前髪フィットブラシで髪をしっかり捉え、独自処方ロックジェルでパリっと長時間キープします。どんなスタイルの前髪にも対応し、アホ毛やおくれ毛、触覚ヘアにも使えます」
商品開発においては、さまざまな細かい点について工夫をこらしたという。
「『前髪特化型』ヘアマスカラで、どんな前髪にも対応するため、ジェルの処方、ブラシの形状にこだわって開発しました。発売当時は、特にシースルー前髪が流行していたため、ジェル処方で、毛量が少ない前髪でもしっかりキープできるように弊社独自開発のポリマーを処方し、高いキープ力を実現しております。ブラシ形状は、小回りが利くサイズ感で、シースルー前髪、ぱっつん前髪、流し前髪、立ち上げ前髪などに対応できるよう大きすぎず小さすぎず、こまわりが利くブラシ、かつ前髪をしっかりと捉えることができるブラシ形状です。また、液がブラシの間にしっかり入るように設計しているため、髪の毛一本一本に均一に塗布することができます。さらに、商品のサイズについても若年層のバッグが小さくなっていることもあり、ポーチなどに入れやすいサイズ感を考えました」
開発・発売の背景
そもそも、なぜ前髪キープ特化型のマスカラを発売するに至ったのか。その背景には、精緻な消費者ニーズの分析があった。
「当時アホ毛対策として発売していたヘアマスカラの市場はすでに伸びていましたが、生活者は前髪メインで使用していました。競合品があるなかで、どうやってお客様のニーズに合致したケープらしいヘアマスカラを開発できるか考えたときに、前髪キープニーズは特に若年層を中心に高まっており、そのなかでスプレータイプのケープフォーアクティブは前髪をしっかりキープできるということで評価をいただいておりましたので、『前髪特化型』として発売することで、生活者のニーズに対応できると考えました。スプレーだと広範囲にかかる、細かいシースルー前髪だと顔にかかる、などというお悩みも顕在化していたため、細かく調整ができ、しっかりとキープできる前髪に特化したヘアマスカラの開発に至りました」
累計出荷本数は160万本以上となっているが、その推移は花王の想定を大きく上回っているという。
「発売後すぐ話題になり、発売3週目で目標の2倍以上売れました。その後もコンスタントに売れ続けて、発売後1年の出荷数量が、当初計画に比べて1.7倍でした。新製品の販売数の評価は、一時期欠品してしまうほどの売れ行きで、販売店さまや生活者の方にご迷惑をかけてしまった点はありますが、売れ行きについては計画以上で良好とみなしています。マスカラの新商品としては、マスカラ内で最も売れ行きが良く、高評価をいただいています」
愛用者起点の施策がカギ
PRや広告、SNS活用などプロモーション面においては、どのような施策を展開したのか。
「発売直後のテーマは『黒ケープから前髪マスカラ出た!』で、すでに高い認知と多くの愛用者を獲得しているケープ史上最強のキープ力を誇るスプレー『for Activeシリーズ』(愛称:黒ケープ)のイメージを活かしたプロモーションを展開しました。若年への浸透には、SNSで人気のコンテンツを参考にブランド発信の動画と、ケープを愛用してくださっているインフルエンサーさんが実際に使用している様子を動画で投稿いただく施策を組み合わせることで、女子高生の認知・話題喚起と熱量の高い生声による信頼感の醸成を図りました。なかでも、愛用者起点の施策が、商品への興味やエンゲージを高める効果が高く、以後、プロモーションを計画する際にも大切なポイントに位置付けています。
TikTokで公式アカウントを運営しているのも、愛用者起点の取り組みで、SNSで『最適なアイテムの選び方』や『仕上がりをよくする使い方』などの投稿をもとに、アイテム紹介や、推奨しない使い方の発信をすることで、インタラクティブな環境を作り上げようとしています。もともと消費者が疑問に思っていることなので、公式が発信すると安心したり、納得したり、反響も大きいです。さらに、プロモーションにとどまらず、愛用者・ファンの声を商品開発にも活かしています。SNSで、『まつ毛をキープしたいから、まつ毛用のケープがあればいい』という声もあったことから『ケープ フォーアクティブ カールロックマスカラ下地』も発売しました」
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)











