例えば、プロサッカー選手の香川真司選手の回は、彼の帰国タイミングに合わせて放送前日に撮影しましたし、ボクシングの村田諒太選手の回は、プロデビュー戦当日の放送でしたので、当日の映像や試合後の村田選手からのメールも盛り込みました。予備校講師の林修先生の回も、その年の授業初日に放送日を合わせて、午前中の授業シーンを入れて当日放送しました。
●視聴者が自身を投影できる番組
–制作する上で、大切にしていることを教えていただけますか?
福岡 人物ドキュメンタリーであるということは、もちろんブレないようにしようとしていますが、一般視聴者の方々に共感してもらえる部分は絶対に出そうと思っています。一流の人とテレビを観ている一般の方々に共通点がまったくないかというと、絶対にあると思うんです。悩む時は万人が悩むだろうし、喜怒哀楽はみんなが持っている感情じゃないですか。そこの部分は「一流の人でもそうなんだ」「俺たちと一緒なんだ」と思うようなところがあると、一流の人を同じ人間としてすごく身近に感じられるのではないでしょうか。そこでさらに、「一流人たちは逆境や悩みをこうやって乗り越えた」ということを提示できれば、視聴者も「私は今こういうシチュエーションだけど、がんばっって乗り越えよう」などと、自分に投影しながら観られると思うんです。視聴者には自分の人生のヒントを探しながら観ていただきたい。
–『情熱大陸』のすべての回に共通して、乾燥感というか、ちょっと乾いた空気感がテレビ画面から感じられるのですが、そこは意識していらっしゃるのでしょうか?
福岡 相当意識しています。要するに、盛り過ぎないというか「この人すごいでしょ」と言われると、言われた側は気持ち悪いですよね。褒め過ぎると人は拒絶反応を起こすと思うのです。褒め言葉を並べることが褒めることにはならないというか、やっぱり客観的にそうだというところを見せてあげないと。ろくに映像が撮れていないのに「すごいでしょ」と言われると、誘導されている感があるじゃないですか。報道番組ではないですが、魂にはジャーナルな部分も持ち合わせていないと、ただのプロモーション番組になってしまいます。
–今後、何か『情熱大陸』で新たな取り組みなどを考えていらっしゃれば、教えてください。
福岡 800回が5月4日に放送されるのですが、それは88年世代の人を集めたインタビュー・ドキュメンタリーの特集にする予定です。88年世代は今26歳の世代なんですが、実は芸能界やプロ野球界に一流どころが多いので、そこにスポットを当てたいという少し変わった演出です。
●「いや、テレビでやれますよ」という提案
–最近、「人々のテレビ離れ」ということがよく言われますが、日々制作現場に携わる福岡さんはどのように感じられますか?
福岡 私も一時期、「テレビは終わった」「インターネットに押されてキツイんじゃないか」と思った時期がありました。しかし、以前『情熱大陸』でアプリとの連動をやったのですが、きっかけは「インターネットがテレビに寄っていく状態が、ここ5年くらいで来る」と思ったことでした。
今までは「インターネットvsテレビ」と捉えられがちでしたが、これからはテレビを基幹媒体にしてネットが寄り添っていくという手応えを感じたんですよね。「テレビを観ながらスマートフォン(スマホ)をいじる」というところから、スマホとの連動というのがメインになっていき、例えばプロ野球中継で視聴者がスマホでカメラをスイッチングできたりするということも可能です。