ソニーは5月1日、14年3月期連結決算見通しの最終損益を1300億円の赤字に下方修正していたが、その時の株価下落は小幅だった。しかし、決算の確定値が発表された15日の東京株式市場では、ソニーの株価は売り気配で始まり、1699円(106円安)で寄り付いた。安値は1658円(147円安)、終値は110円安の1695円となり、株主が失望感を深めた結果だとみられている。
ソニーは会見で「今期は構造改革をやり切り、(赤字は)打ち止めにしたい」(吉田氏)と宣言し、エレクトロニクス事業の4期ぶりの黒字化や、この10年間で営業赤字の累計額が8000億円近くになったテレビ事業の「黒字転換を見込む」(十時裕樹業務執行役員)とした。だが、ソニーは14年3月期決算見通しを3度にわたり下方修正し、最終的に営業利益は期初予想の10分の1という異例の事態を呈したため、市場では「ソニーに対する不信が広がっている」(証券アナリスト)という。
また、約1350億円を見込む今期のソニーの構造改革費用の中には、パソコン事業の売却に伴う費用や国内外の本社・販売会社で行う約5000人の人員削減費用が含まれているが、1990年代後半以降、同社の人員削減数は出井伸之氏、ハワード・ストリンガー氏の両CEO時代から累積ですでに7万人以上に達しており、「エンドレスの人減らしを、いつまで続けるのか」(同社関係者)という批判の声も聞こえる。ちなみに、リーマン・ショック後の09年3月期から14年同期までの6年間の最終赤字の累計は、1兆円近くに上る。
そんなソニーは5月22日に経営方針説明会を開催し、平井氏がソニー復活に向けた具体像を語るとみられている。同社は今後、金融、エンターテインメント、エレクトロニクスのコア事業に経営資源を集中する方針だが、金融事業を別にすれば、いずれも世界的に厳しい価格競争に見舞われているものばかりだ。外資系証券会社のエレクトロニクス担当アナリストは、「ソニーの最大の問題点は、何で稼ぐのかの成長戦略がはっきりしないことだ」と指摘するが、その点について経営方針説明会で平井氏が明快な説明をするのかという点に市場の注目は集まっているという。プラズマテレビ事業からの撤退や半導体工場の売却など、構造改革を加速させたことで14年3月期に6年ぶりに高水準の純利益を上げたパナソニックと比較し、ソニーの改革の遅れが鮮明になりつつある。
●社外取締役に大物起用
ソニーは14日の決算発表の前日、新しい社外取締役候補を公表した。いずれも6月19日に開催される株主総会で承認・決議され、正式に就任する。前駐日米国大使のジョン・ルース氏、元経済産業事務次官の松永和夫氏、三井住友フィナンシャルグループの宮田孝一社長ら4名が新たに就任する。松永氏は11年の東日本大震災発生時の経産次官。東京電力福島第1原発事故の拡大を防げなかった責任を問われ、同年8月に事実上更迭された。ソニーの取締役に前駐日米大使や事務次官が就くのは初めてだが、決算発表前日にこの人事が発表されたことをめぐっても、「大物起用のサプライズで、決算のマイナスのインパクトを少しでも弱めるためではないか」と疑う見方もある。
もし22日の経営方針説明会で抜本的な経営再建策を示すことができなければ、「ソニー不信」はますます深まっていくことになるだろう。
(文=編集部)