ただ、これは昨年9月の発表会で「(既存のLTEに)900MHz帯を合わせた3つの周波数帯で“Hybrid 4G LTE”を展開する」と表明し、そのメドを2014年4月頃と明らかにしていたことを踏まえると、大幅な遅延だといえる。しかも、そのメドといわれた4月には同社から開始時期に関する明確なアナウンスは一切なく、5月7日の発表でも“遅延”という表現は一切使用していない。通信環境の向上に期待していた多くの既存ユーザーや、“Hybrid 4G LTE”を売り込まれて契約した新規契約者は途方に暮れたのではないだろうか。
ところで、なぜソフトバンクは900MHz周波数帯によるLTEサービス導入が遅れているのだろうか。その背景には、総務省からソフトバンクに割り当てられた900MHz周波数帯のある事情が関係しているといわれている。
●強引にスタートさせたプラチナバンド
実は、ソフトバンクが免許を持っている900MHz周波数帯域は、同社がそのすべてを使用できている状況ではない。同社に許可が出た時点で、その周波数帯にはタクシーが使用しているMCA無線や物流・製造の現場でICタグに使用されるRFID通信、家庭用ホームセキュリティ用の通信回線などの電波が割り当てられており、その事業者の数は1万を超えているといわれている。ソフトバンクは、そうした既存の周波数使用事業者が多数存在して使用範囲が限られる中で、プラチナバンドをスタートさせていたのだ。
もちろん、新規割り当てに伴う周波数帯域の再編によって、既存の900MHz周波数使用者は周波数帯の環境を移行する必要があり、総務省はその移行期限を18年3月末までと定めていた。
しかし、ソフトバンクは総務省の計画よりも4年前倒しして14年3月末までに既存の周波数使用者の環境移行を終えるという計画を提出して、900MHz周波数帯域の許可を獲得した。ソフトバンクは環境移行にかかるコストを負担するなどして、周波数帯の再編を推進してきたが、実際には当初計画よりも大幅に遅れているものとみられる。ソフトバンクが四半期ごとに総務省に提出している報告書でも移行計画の進捗が遅延していることは明記されており、ソフトバンクが使用できる900MHz周波数帯は依然として“制限あり”の状態。こうした電波事情が900MHz周波数帯によるLTE導入を遅らせているのであろう。
こうした状況は、「ソフトバンクの努力不足だ」と一言で片づけられるほど単純なものではない。実際に使用周波数の変更に伴い環境移行しなければならない1万以上に上る事業者にとって、その手間と事業に与えるインパクトは決して小さいものではなく、ソフトバンクがコストを負担すると言っても短期間で簡単にできるものではない。こうした難しさがあるからこそ、総務省は18年という余裕をもった期限を定めて、既存事業者に移行を促していた。それを民間企業の都合で前倒しさせるということ自体に無理があったのではないかとみられている。