鋭い商品、なぜ売れない?“出来の悪い”試作品がファンを獲得?日米企業比較で検証
数多くの大企業のコンサルティングを手掛ける一方、どんなに複雑で難しいビジネス課題も、メカニズムを分解し単純化して説明できる特殊能力を生かして、「日経トレンディネット」の連載など、幅広いメディアで活動する鈴木貴博氏。そんな鈴木氏が、話題のニュースやトレンドなどの“仕組み”を、わかりやすく解説します。
経営コンサルタントには、売れっ子とそうでない人がいる。そして売れっ子のコンサルタントは、実はそれほど“鋭い”コンサルタントではなかったりする。
クライアントから案件を受注する際に鋭いコンサルタントは、えてして次のような失敗をする。例えば役員から、「売り上げが低迷しているので商品開発人材を強化したい」という相談を受けて、あれこれ情報を集めて分析し、「御社の売り上げが低迷しているのは商品開発に関わる人材の問題ではなく、顧客とのコミュニケーションプロセスに問題があるようです。だから……」というように最初から鋭い提案を行う。提案が芯をくえば受注できるが、それでうまくいくケースは多くはない。
一方で、普段はそれほど鋭いコンサルタントではない地道なコンサルタントは、最初に相談を受けると、すぐに“できの悪い”提案書(素案)のようなものを持って役員氏を再訪する。すると役員氏は、「うーん、ちょっと違うんだな。私が言いたいのはこういうことで、提案書のここを直してくれないかな。それとこの部分についてはA部長の意見を聞いて反映してほしい」などと修正注文をつけてくる。
地道なコンサルタントはその箇所を忠実に修正し、またA部長にもアポをとってヒアリングしてその結果を役員氏に伝え、提案書に反映させる。その結果、鋭いコンサルタントからみるとそれほどインサイト(洞察)に富んだものではない普通の提案書ができあがる。ところがコンサル業界ではよく知られた話だが、クライアントは自分が一生懸命手直しした提案書のほうを採用する傾向があるのだ。
●出来の悪い試作品を発売する狙い
さて、最近の商品開発の成功事例を観察すると、これと同じことがスケールを拡大して起きている。それがリーンスタートアップとかグロースハッカーと呼ばれる手法の本質でもある。
詳しい解説はこのふたつのキーワードを扱った記事や書籍がたくさんあるのでそちらを参照いただくとして、簡単にいえば商品やサービスを開発するのに当たって、最初に出来の悪い、というか出来が悪くて構わないけれど最小のコストでつくれるような試作品を開発して実際に発売し、そのような商品でも興味を示してくれるユーザーを見つけて使ってもらいながら、意見を集めて改良していくという商品開発手法である。よくウェブサイトやアプリのサービスで用いられる開発手法のように思われているが、それだけではなくリアルな商品の世界でも、この開発手法を採用した企業が、伝統的な大企業を押しのけてシェアを拡大する事例が増えている。