M&Aでは資金力がモノをいう。ソニーは大赤字とはいえ、腐っても鯛。12年3月期の現預金残高は8945億円あり、出資額500億円は大きな負担にはならない。しかし、テルモは241億円の黒字だが、現預金残高は787億円とソニーの10分1以下、500億円の出資負担は大きい。
しかも、テルモは11年、輸血関連機器を製造・販売する米カリディアンBCTを26億2500万ドル(1ドル82円換算で2152億円)で買収したばかり。キャッシュフローは2417億円のマイナスとなり、財務面での余裕はない。テルモにとって、オリンパスへの500億円の出資は、社運を賭けた一大投資になる。
テルモがオリンパスへの損害賠償請求訴訟を、経営統合案とは「別の次元の問題」としているのは、それなりの理由がある。テルモが問題にしているのは、05年8月4日にオリンパスがテルモに対して行った第三者割当増資の際の情報開示のあり方だ。オリンパス011年の過年度決算を訂正し、財務諸表に虚偽記載があったことを認めている。
テルモはオリンパスに対して、金融商品取引法(旧・証券取引法)上の不法行為(粉飾決算)の責任を追及することができるが、その提訴期限は8月上旬。それまでに裁判を提起しなければ、損害の請求権を行使できなくなる。損害賠償の権利をみすみす捨てたりすれば、テルモの取締役は善管注意義務違反(重過失により会社に損害を与える行為)で、テルモの株主から株主代表訴訟を起こされるリスクを負うことになる。それを避けるために、とりあえず裁判を起こしたということだろう。
テルモのように、オリンパスの株価下落によって損失を被った投資家による訴訟が今後、相次ぐと見られている。外資系証券アナリストは「外国人投資家の半分が損害賠償をしただけでも200億円以上の現金流出につながる」と試算しており、500億円の資本注入では、すぐに不足する懸念が強まっている。
テルモが経営統合を提案しながら、裁判を起こしたのは、交渉を有利にするための硬軟織り交ぜた戦略といえるような上等なものではないのだ。損害賠償請求訴訟をやらなければ、株主代表訴訟のリスクを背負うことになる。だから、経営統合提案とは「別の問題」といっているわけだ。
一方、富士フイルムは終始、オリンパス獲りに執念を燃やしている。オリンパスは経営の独立性を重視しており、富士フイルムの軍門に下れば独立性が脅かされると判断していることは間違いない。だから富士フイルムの資本・業務提携の申し入れを無視するかたちでパナソニック、ソニーに接近した。しかし、富士フイルムは諦めていない。12年3月期末の利益剰余金は1兆9400億円ある。