ゼンショーは横浜市内の労働者の多い街で、すき家一号店となる持ち帰り弁当・牛丼店をオープンした。小川氏は「民主主義的な会社は成長しないと思う。やはり強烈なリーダーが『俺が黒と言ったら黒なんだ』と決めて、その代わり全責任を負う。失敗したら命もないと思うことだ」として、ワンマン経営を敷いた。
小川氏が初めて大々的にメディアに登場したのは「日経ビジネス」(10年9月20日号/日経BP社)の特集『外食日本一 ゼンショー』である。そこで描かれた同社の社員やクルーと呼ばれるアルバイト社員の管理は徹底しており、衝撃的ですらあった。まず、全員に「ゼンショーグループ憲章」という小冊子が配られる。憲章にはクルーとしての立ち居振る舞いが事細かに定められている。
「『商談は30分』『社員は群れてはいけない』『笑ってごまかさない』『いい人に思われるようにするな』…。『歩く時は1秒に2歩以上』との記述がある。社員誰もが、どの場面でも早歩きや小走りで移動する様に、目を丸くする来訪客もいるという。グループ憲章は“バイブル”に等しい。全員に配られる冊子は一つひとつにシリアルナンバーが打たれ、なくすことは許されない」(「日経ビジネス」より)
顧客の回転率を上げるため、どの外食チェーンも作業手順をマニュアル化しているが、すき家ではなによりもスピードが求められる。すき家のカウンター席では、牛丼は原則として10秒以内で出すことになっている。吉野家の15秒を上回り、業界最速だ。学生アルバイトであるクルーは、「いらっしゃいませ」と声をかけてからのすべての動作を、体のバランスの取り方から手の動かし方まで秒単位で決められている。牛丼の具材をよそう時の動作はこうなる。
「左手で丼を取り、右手でよそう。この際、足を一歩たりとも動かしてはならない。リズムよく重心移動で左、右と流れるような作業をこなすのが鉄則だ」(同)
現場のクルーはときに、「やや膝を曲げ、カウンターがある左側の重心を意識すること」が大切なのだという。丼を下げる時の動作も定められている。
「丼を下げる時は、左手でトレーを持ち、右手で専用ナフキンを使って、テーブルをZ字に拭かねばならない。その際のルールは丼を洗う時と同じく「肘から下」(を使う)。上腕を使うと動きが大きくなり、ムダな動きだと叱責を受けることになる」(同)
24時間、店舗を回すために作業のすべてに決まり事がつきまとう。細かなタイムテーブルが組まれ、すべて分秒刻みの制限時間が設けられている。クルーは、ゼンショーグループ憲章を完璧にこなせるようにならなければ、一人前とは認められない。
●米海兵隊式の社員訓練
ゼンショー経営の要諦の第二は「絶対服従を叩き込め」だ。新入社員は4月1日から11日間、「ブートキャンプ」と呼ばれる合宿に送り込まれる。その目的は「学生時代の誤ったリーダーシップ観を徹底的に否定する」こと。訓練や討論によってゼンショーグループ憲章への絶対的服従を叩き込んでいく。