本流社長・V字回復パナソニック=勝ち組、傍流社長・不振深刻ソニー=負け組、は正しいか
●社長の経歴
さらに、両社社長の経歴を見てみよう。パナソニックの津賀社長が事業部門トップを最初に務めたのが、カーエレクトロニクス部門のオートモーティブシステムズ社である。現在同社の事業シフトが自動車関係、特にバッテリー事業に集中している理由が理解できる。しかし、研究畑出身である津賀社長の経歴を見ると、デジタルテレビ関連のネットワークとソフトウェア領域に従事し、その後はブルーレイ(次世代DVD規格)の立ち上げに中心的に関わっていた。その後、AVCネットワークス社社長を経て、12年4月にパナソニック代表取締役専務に就任している。この経歴は、中村・大坪氏の元社長がAVC社(現AVCネットワークス社)社長であったのと同様、テレビ、ビデオ、オーディオ、PC、カメラなどパナソニックの屋台骨であった家電事業の本流を歩んできたということを意味する。この意味で、津賀社長は本流の出身といえるであろう。ちなみに14年にテレビ、ビデオ、オーディオはアプライアンス社に移管されている。
一方のソニー平井社長は、ICU(国際基督教大学)出身ではあるが、ハワード・ストリンガー前取締役会議長と英語でジョークが語れるといわれる帰国子女である。大手日本企業のトップとしては、かなり毛色が異なるといえる。
平井社長は大学卒業後、CBS・ソニー(後のソニー・ミュージックエンタテインメント)に入社。00年にSCEI(ソニー・コンピュータエンタテインメント)の北米法人SCEA (Sony Computer Entertainment America) に転籍する。06年にSCEIコーポレート・エグゼクティブ グループEVP(エグゼクティブ・バイスプレジデント)に就任。最終的に名誉会長に退いた久夛良木健氏に代わりSCEIグループCEOに昇任し、SCEIのトップとなった。ソニー本体での職歴は、09年の執行役EVP就任からである。つまり、ソニー本流ではないのである。
この点は、津賀社長と大きく異なる。加えて、現在の平井体制を支える59年生まれの吉田CFOと64年生まれの十時裕樹ソニーモバイル社長は、それぞれソネット(00年に出向)とソニー銀行(01年に転籍)で、新事業を軌道に乗せた実績を持つ。つまり彼らもまたソニー本流ではない。
『ブラック・スワン』著者で作家のナシーム・タレブ氏は「中心=本流からは本当の革新は起こせない」とするが、これを当てはめて、真の意味での「企業の脱皮」という革新を起こせる可能性はどちらが高いだろうか。つまり、東原敏昭日立製作所社長の「V字回復までは赤字を抑えたりすればよい。これから先はどうやったら成長できるか、自分の頭で考えることだ」という観点で両社の今後の可能性を考えると、どちらに軍配が上がるだろうか。
本稿のテーマである「ソニーは負け組、パナソニックは勝ち組という認識は正しいのか」に対する答えは、次回連載に持ち越したい。次回は、両社の事業について論考する。
(文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授)