同社の財務内容は改善が著しい。隠してきた損失を貸借対照表に反映させたことによって12年3月期末には4.6%にまで落ち込んだ自己資本比率は、直近で38.6%にまで回復した。増資に加えて利益の蓄積が進んだことや、有利子負債の削減が同比率を押し上げたのだ。外国為替相場が円安に転じたことで、為替換算調整勘定が大きく改善したという追い風にも恵まれ、純資産も順調に膨らんでいる。
業績に目をやると、デジタルカメラなどの映像事業の営業赤字が続き、在庫がじわじわと積み上がっているのを大目に見れば、医療機器事業を支えに全社ベースの利益水準も右肩上がりだ。株価も損失隠し発覚前の水準はもちろん、リーマン・ショック前の絶好調だった頃をうかがう水準に戻ってきている。業績や財務内容、株価の回復だけに目を向ければ、オリンパスはすっかり立ち直ったかに見える。
しかしオリンパスは最も困難な経営課題に直面している。社員の士気低下が品質の劣化を招き、一方で隠蔽体質は変わっていないのだ。
昨年7月、独立行政法人・医薬品医療機器総合機構のHPにオリンパス製内視鏡のリコール情報が掲載された。内視鏡を繰り返し使用しているうちに電源スイッチが壊れてON/OFFができなくなるとして、改修や回収が必要になったという。ここに掲載されているもので9000台を超えるが、これは国内出荷分だけ。海外出荷分も合わせた改修は3万台に及んだ。オリンパス関係者によると「これほど大規模の改修は、これまでになかった」という。
出荷時期を見ると、11年9月から14年4月までであり、損失隠し発覚で大騒動になった時期に重なる。しかも改修が必要になったのはいずれも、事件発覚以降の収益拡大を支えてきた機種である。各部署で主力の社員が抜けてしまい、凡ミスが続出して品質の低下につながっているという。
●開示姿勢に疑問も
もう一つ問題なのは、オリンパスがこの改修情報を納入先に通知したり、同機構のHPに掲載した程度で、投資家に対しては伏せられたも同然であったことだ。同社のHPや決算短信、補足説明資料を見ても一切説明がなく、証券会社でオリンパスの経営を定点観測しているアナリストですら「知らなかった」と明かす。
業績に与える影響が6億円と小さいことから、ルール上、開示の必要がなかったのはわかるが、資本・業務提携先として役員も受け入れているソニーにさえ知らせなかったという開示姿勢は問題であろう。同時に、人の命を預かる医療機器メーカーとして今後問題視される可能性もある。06年にリチウムイオン二次電池の発火事故を受けて自主回収を行ったソニーから見ると、今回のオリンパスの対応は「(医療機器メーカーの対応としては)ちょっと信じられないこと」(ソニー関係者)と映っている。