こうした視点から捉えると、マッサンの行動は簡単に否定できるものではないでしょう。ドラマの中で戦後の日本において数多くのウイスキーメーカーが乱立し、激しい競争が展開されるシーンがありましたが、そうした競争をかいくぐり、長きにわたり存続できた大きな要因は、創業者であるマッサンの執拗なまでの本場のスモーキーフレーバーにこだわった行動が、他社との差別化につながったからではないでしょうか?
筆者は、巷にあふれるブランド構築法のようなものには否定的ですが、今回のように創業者が強い信念を持ち、その達成に向け、組織一丸となり長きにわたり努力を続けた結果は、他社が簡単に真似できるはずもありません。決してお手軽な方法ではありませんが、ブランド構築法と呼べるかもしれません。
もちろん、大将の行動がマーケティング・セオリー通りのありきたりなものであるとは思いません。例えば、水を売ることは難題といえます。機能的価値で差別化する余地は極めて少なく、「それらしい商品名を付け、大々的に宣伝」「ペットボトル容器の工夫」「おしゃれなグラスをプレゼント」などが関の山といったところでしょう。
しかしながら、昨年夏の「サントリー天然水」のキャンペーンでは、かき氷の名店「埜庵(のあん)」監修の特製かき氷サーバーとシロップのセットが当たるという懸賞施策が展開されており、「さすが、サントリー。市場拡大およびブランド訴求の視点からも素晴らしい」と感心しました。「なるほど、水を買うなど、せこくて保守的な消費者である筆者にとっては普段絶対にありえないものの、かき氷など特定の用途ではありかもしれない。さらにその後、時の経過とともに日常的に水を買うことへの抵抗感も薄れていく可能性もある」と。
こうした現在のサントリーのキャンペーンも、顧客志向を大切にしながら、斬新な戦略を積極的に展開し続けた大将の“やってみなはれ”DNAにより、実現しているのではないでしょうか。
(文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授)