しかし、関係者によると、武雄会長が信頼する佃孝之社長と宏之氏が経営をめぐって対立し、今後に火種を残さないように武雄氏が息子の首を切った――というのが真相のようだ。
臨時株主総会の3日前、ロッテHDは宏之氏が兼務していたロッテ商事社長などの役職を解いていた。この電撃的解任を受けて、業界内では当初、宏之氏とロッテグループ会長を務める弟の昭夫氏との不和説が流れた。「宏之氏は以前から昭夫氏と折り合いが悪く、それが内紛に発展したらしい」という内容である。
しかし、真相は違った。宏之氏が対立していたのは佃社長だったのだ。ロッテ関係者が明かす。
「住友銀行(現・三井住友銀行)で専務、ロイヤルホテルでは社長も務めた佃社長は6年前、その経営手腕を見込まれ、武雄会長に請われるかたちでロッテHDの社長に就任しました。そして、ロッテの日本事業を統括する宏之氏と対立を深めていき、武雄会長に対して『私を切るか、宏之さんを切るか、あなたが決めてほしい』と迫ったといいます。これを受けて、武雄会長はやむなく宏之氏を解任し、グループ全体の調和を守ったということです」
ロッテグループは、宏之氏が日本事業を、昭夫氏が韓国事業を統括してきた。第二次世界大戦終戦直後に武雄会長が創業したロッテは、日本では菓子事業が中心だが、韓国では重化学工業が中核で、上位財閥にも名を連ねる存在となっており、売上高も日本の20倍近くある。韓国での事業を軌道に乗せた昭夫氏の手腕は、佃社長も高く評価しており、宏之氏はグループで浮いた存在になっていた。
「すでに武雄会長は、自身がオーナーを務めてきたプロ野球・千葉ロッテマリーンズの代表代行に昭夫氏を起用しました。マリーンズは菓子事業のPR役であり、本来であれば宏之氏が担当するのが筋ですが、武雄会長は昭夫氏の社交性を評価したといいます。いずれにせよ、これによって名実ともに昭夫氏がロッテグループの実権を握る構図が固まったといえます」(同)
ロッテグループにとって残る火種は、宏之氏がロッテHDの株式を10%以上保有していることだ。宏之氏が持ち株を外部に売却するような動きに出れば、グループの屋台骨を揺るがす事態に発展しかねないだけに、その成り行きが注目される。
(文=編集部)