14年2月、福岡市中央区の九州大学教養部六本松キャンパス跡地北側の2万平方メートルを117億円で落札した。東街区には複合商業施設を、西街区には分譲マンション「MJR六本松」を建設する。地上14階建てで351戸。15年5月下旬に販売を開始する。
不動産投資にも積極的だ。昨年春には都内のオフィスビルに投資し、夏には首都圏でホテルも開業した。JR九州の14年4~9月期の連結決算における駅ビル・不動産の営業利益は105億円。連結営業利益106億円の、ほぼ全額に当たる。鉄道事業の赤字を、駅ビル・不動産の利益で補填している構図だ。
外食FCからコンビニ、ドラッグストアまで
1987年の発足時は売上高全体の3割程度だった非鉄道事業の割合は、今や6割を占めるまでになった。JR東日本、JR東海、JR西日本には、それぞれ山手線・中央線や東海道新幹線、山陽新幹線のドル箱路線があるが、JR九州は赤字路線ばかりだ。そこで同社は、収入源を確保するためなら何にでも飛びついた。自動車販売やリース、キノコ栽培、スーパー銭湯、釣り堀など、初期投資が小さい事業に次々と挑戦した。
大半は失敗して撤退したが、不動産や流通、外食が残り、今では収益の柱に育ってきた。コンビニのファミリーマートをはじめ、外食のミスタードーナツ、ケンタッキーフライドチキン、モスバーガー、シアトルズベストコーヒー、サブウェイのフランチャイズ(FC)店も運営している。これほど多くの外食FC店を手がけている企業は全国でも珍しい。
ドラッグストアチェーンのドラッグイレブンを買収し、福岡空港で空弁(空港弁当)の定番商品となったカツサンドで競争を仕掛けたトランドールは、JR九州のパン製造子会社だ。他のJR各社や私鉄も不動産や流通事業を手がけているが、メーカーまで持つ例は珍しい。さらに居酒屋「うまや」で中国へも進出。今春には、森ビルが開発した超高層ビル「上海環球金融中心」に出店した。評判を聞いた森ビルが出店を依頼した。農場では「うちのたまご」も生産している。
なんでも食らいつくことからJRの“異端児”と呼ばれ、国鉄民営化当時はJR北海道、JR四国とともに「三島会社」と揶揄されたJR九州の面目躍如だ。
経営安定基金の問題
一方、そんなJR九州に対し、民間企業からは「民業圧迫」との批判も多い。同社の成長を支えたのは、民営化の際に国から渡された実質補助金ともいわれる経営安定基金3877億円だった。毎期100億円前後の運用益で鉄道の赤字を穴埋めし、年60億円の市町村税減免という特典もあった。そのため、「多角化で民間企業が手がける市場に新規参入する前に、まずは経営安定資金を全額、国へ返還し、民間企業同様に市町村税も払い、同じ土俵で相撲を取るべき」(九州不動産業界筋)と批判された。