「正社員に登用されるという話だったのに……」と不安気に嘆くのは、正社員登用試験に落とされた30代の契約社員・Aさん。現在、大企業B社の技術部門で働く契約5年目だ。B社では、5年前に導入された、契約社員に対しての正社員登用制度がある。4年目と5年目に正社員登用試験を受けるチャンスがあり、合格すると正社員に登用される資格を得ることができる制度だ。
「同じ職場で5年を超えて働く有期契約、派遣社員に対して契約期間を限定しない『無期雇用』に転換することを義務付けよう」という民主党政権時の労働契約法改正に合わせた制度導入だった。
Aさんは、それまでは派遣社員として他社で働いていたが、正社員登用制度があることに魅力を感じて、B社の契約社員として働き始めた。
「技術職で昼夜問わずのシフトがあるものの、時間を見つけては、効率的に作業できるような提案をするなど、会社に貢献できたことを自負しています。3年目まではボーナスも出る契約社員制度だったので、ボーナス増額の評価がありました」(Aさん)
2年前から、契約社員にはボーナスがなくなり、手当も減額された有期社員制度に変更されたが、上司からの評価も高いAさんは、簡単に正社員に登用されると思われていた。
「この試験は、会社にとって初めての正社員登用試験でした。上司からのサポートもあったのですが、試験内容は過去に受けた経験もあるSPI総合検査(リクルートマネジメントソリューションズが提供する適正検査)のようなものだろう、との考えで受験したところ、1次試験で不合格になってしまったのです」(同)
試験はSPIよりも高度なGAB(日本エス・エイチ・エルが提供する適性検査)だった。GABは、計数の分野では表計算、言語の分野では長文、英語などが出題される、こうした登用試験ではよく用いられる試験で、あらかじめ問題に慣れておくなど対策が必要だ。さらに英語も出題されるが、Aさんの部署は英語の必要のない部署でもあり、準備もまったくしていなかったのだ。
合格しても正社員にはなれず
しかも、合格倍率も厳しいものだった。
「受験した数百人のうち、合格したのは3割程度でした。契約社員の4年目と5年目に受験できるので、不合格者も再受験するでしょう。合格枠が増えるとは考えにくいですから、倍率がますます高くなるでしょう。あまりの条件の悪さに、別の企業に移った同僚もいたほどです」(同)
5年目の2回目の試験で不合格となっても、現状では救済措置がなく、契約が打ち切られるだけだ。高い技術力のあるAさんは、他の企業に移るか、再びB社とイチから再契約をするかを迫られることになる。B社にとっては新たな若い技術者が入ってくればいいといった程度に考えているのかもしれない。
「B社の正社員登用試験に合格しても、準社員になることができるだけで、正社員になるまでのロードマップも不透明です。契約社員4年目にならないと受験できない正社員登用試験というだけで、B社を敬遠する技術者も増えています。B社は、契約社員制度を見直す時期に差しかかっていると思います」(同)
「登用試験で正社員になれる」は真っ赤なウソという実態が、明らかになり始めた。大企業でさえ、こうしたありさまなのだ。
(文=小石川シンイチ)