それはともかく、6月の株主総会で減資とともに優先株の発行も承認されて約2000億円のDESが実行されたら、資本金は1億円まで減っても実質上の資本金は2000億円程度上積みされる。自己資本が増えるためシャープにとってはありがたい資本増強で、この減増資をテコに財務の改善を進めて、18年3月期末に連結の自己資本比率を約10%まで引き上げる計画だという。
では、株主にとってはどうなのだろうか。
株主総会の議決権がない優先株は普通株とは分けて取り扱われ、既存株主の議決権割合は変わらない。『会社四季報』(東洋経済新報社)や『日経会社情報』(日本経済新聞社)におけるシャープのページの大株主に大手銀行が並んで銀行管理会社のような様相を見せることもない。しかし、優先株の優先とは「剰余金の配当を優先的に受け取れる」という意味なので、将来、シャープの業績が回復して黒字転換や増益を果たし、配当可能利益が増えても、復配時には既存株主を差し置いて銀行に優先的に配分されることになる。また、優先株を普通株に転換されて、既存株主の1株当たりの価値が低下する「希薄化」が起きるリスクにもさらされる。
減資と同時に「1000株を1株にする」ような株式併合が行われたら、配当や株主優待で不利益を被る場合もある。いずれにしても、既存株主にとってありがたい話ではない。
上場を維持して減資した“先輩”はダイエー
「減資」という言葉を聞いてまず連想されるのは、10年に日本航空(JAL)が会社更生法適用を申請し経営破たんしたケースだろう。この時は100%減資で全株が無効、つまり紙くずになり、株主が全責任を負う形で上場廃止になっている。同じ100%減資は経営破たんしたスカイマークでも今年、実施される予定になっている。
減資後も上場を維持した主なケースでは、05年にダイエーが行った「99.6%減資」がある。この時は産業再生法の適用を受けて産業再生機構などから支援を受けたが、経営破たんではなかった。
経営状況が悪化して事業や資産売却を重ね、DESも含めた金融支援を受けていた当時のダイエーは、産業再生機構の再建計画のもと、10の金融機関に約4000億円の債権放棄をのませ、99.6%、1190億円の減資を行って資本金を5億円とした後、丸紅、投資ファンドのアドバンテッジパートナーズ、産業再生機構に対し1120億円の第三者割当増資を行った。それは優先株ではなく、再生機構の新株取得価格は時価より大幅に安く既存株主より条件が有利な「有利発行」だったが、優先株ではないので最初から希薄化が生じ、結果的に既存株主は株価の低下で損失を被った。10株を1株にする株式併合も併せて行われ、ダイエーの経営悪化に対し株主も一定の責任をとる形になった。