女性登用推進で男性の権利を侵害することは許されるのか?採用されない男性合格者たち
個人の権利vs.多様性
これは、欧米等の人種問題で時々論争となる、いわゆる「逆差別」という議論に類似するもので、キャリア官僚の採用判定や基準の要素に性別を考慮することが許されるかという議論に発展する。
この議論を突き詰めれば、「個人の権利vs.多様性」という論点が浮かび上がってくる。個人の権利とは何か。それは、キャリア官僚の採用判定や基準の要素に、法律や経済といった知識に関する理解力やそれを操る潜在的能力のほかに、「性別」を考慮することで、採用された女性と同じ知識や能力を持つ男性合格者の権利を侵害することが許されるのか、という問題である。これは、公正(Fairness)や差別に関する議論にもつながるはずだ。
他方、多様性とは何か。多様性の議論は、個人の権利に関する議論とは異なり、少子化や財政・社会保障の問題をはじめ、多くの難題を抱える日本がイノベーションを必要としている中で、行政機構の目的や使命に訴えかけるものである。
つまり、「個人の権利」と「公共の利益」(新たな社会的使命)との衝突の問題といっても過言ではない。多様性の議論が説得力を持つためには、反論に答える必要があるが、問題の本質は本当に個人の権利は侵害されるのか否かという点である。
この問題に対する明確な答えはないが、一つ明らかな事実は、採用を決めるのは各官庁であり、各官庁の採用判定や基準は不透明であるという問題はあるが、キャリア官僚の採用判定や基準に「女性採用に重点」という「多様性」の項目が加わったことである。
なお、この事実は行政もイノベーションを必要としており、そのために「多様性」を重視するようになったことを意味する。であるならば、多様性の項目リストは広い。キャリア官僚の中途採用や、局長・課長級ポストを含む産官学の「回転ドア(リボルビング・ドア)」の仕組みを含め、行政機能のイノベーションを強化するため、多様性の拡充を進めていくことが望まれる。そして、それは企業統治改革で社外取締役などの拡充を進めている産業界も同様である。
(文=小黒一正/法政大学経済学部教授)