10月1日から消費税率が10%に引き上げられた。庶民の生活が苦しくなる一方で、政府は財政再建を加速させようと、さらなる増税も視野に入れている。
そうした政府の思惑と足並みを揃えるのが、財界だ。主要経済団体のひとつとして政界にも大きな影響力をおよぼす経済同友会の代表幹事が、今回の増税前から将来の消費増税に言及していた。その発言は大きくクローズアップされることはなかったが、これは政府の気持ちを代弁した内容と受け取られており、「今後、早急に消費増税が検討されるとの見方が強まっている」と永田町関係者は言う。
軽減税率が導入されたため、食料品や新聞などは8%に据え置かれたが、軽減税率による影響は小さい。同時に導入されたキャッシュレス還元策も焼け石に水。ともに痛税感を和らげることに寄与しておらず、むしろ二重税率というシステムの複雑化につながり、中小零細事業者や個人経営店に大きな負担を強いた。本来なら軽減税率の恩恵を受けるはずの青果店やテイクアウト専門の総菜店などは、今回の増税と無縁のように思われるが、実際には多くの個人経営店が廃業した。
消費増税は確実に景気を後退させたにもかかわらず、再増税が早くも水面下で議論されるのはなぜなのか。
「安倍政権の支持率が高いことが、何よりの理由。すでに庶民は誰が首相になっても税金が上がると諦めている。だから消費増税では支持率は下がらないと思われており、“上げるなら今のうち”という政界と財界の思惑がある」(前出・永田町関係者)
経済同友会の代表幹事が主張する17%までの引き上げがもし実現すれば、支持率が低下して政権が倒れてもおかしくはない。しかし、「仮に消費税率が17%になっても20%になっても、安倍政権の支持率はそれほど変わらないだろう」と前出の永田町関係者は予測する。
安倍政権“一強”の弊害
そしてある地方議員は、こんな指摘をする。
「消費増税ばかりがクローズアップされていますが、社会保障費の増大による国民健康保険料や介護保険の負担も年を追うごとに重くなっています。介護保険の場合、見直しがどんどん進められているので、額面は変わらなくても受けられるサービスが切り下げられています。実質的に負担増になるのです」
口の悪い議員は、「国民は政府のATM」「単なる金づる」とまで形容する。そこまで舐められても、国民はひたむきに安倍政権を支持する。ある国会議員は嘆息する。
「北朝鮮のミサイル問題や韓国との関係悪化。これだって、本来なら外交政策の失敗と断じられる話です。ところが、安倍政権だと『北朝鮮、許すまじ』『韓国はけしからん』という話にすり替わって支持率を上げてしまう。この状態では、どんな失策も許される。いわば、“無敵”な状態。だから、政権は驕るし、やりたい放題がまかり通ってしまう」
経済同友会が消費税17%に言及する裏には、法人税の税率を引き下げてほしいという含みもある。経済界が懇願する法人税の引き下げは、業界団体などの組織票を大量に取り込むことができる。だから、政府は消費税を引き上げて法人税を引き下げる。消費税率を引き上げても票は減らないから、ますます政権はやりたい放題になっていく。
「次の衆院選を無難に乗り越えた後、消費税率をさらに引き上げるという議論が出てくるでしょう」(前出・永田町関係者)
消費税、そして国民健康保険や介護保険などの負担増。暮らしが立ち行かなくなる庶民が増えるなか、それでも安倍政権は揺るがない。庶民の生活は、政府と大企業によって蝕まれる。財界の意を受けた安倍政権は、増税へと走り続ける。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)