家計に高額出費を強いる戦犯は誰か?大増税、マンション購入のワナ、女性に過酷な出産&育児環境
2013年度の税制改正で、15年から相続税の「基礎控除」が縮小されることが決まった。基礎控除とは、課税対象となる相続財産の評価額から差し引くことができるもので、現行の「5000万円+1000万円×法定相続人数」から、「3000万円+600万円×法定相続人数」に縮小される。これに伴い、相続税が一気に膨らんでしまうおそれがある。
「東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県の1都3県を対象に、相続税が新たにかかる、もしくは増税となる地域を主要駅ごとにシミュレーションすれば、ほぼすべての駅で相続増税となる。保有資産5000万円が『1つのバー』(税理士)だともいわれているが、都心で住宅を持ち、現預金もそれなりにある人は、おおむね対象となってしまう。つまりサラリーマンであっても、相続税は決して他人事ではない時代に突入した」。このため、相続税対策とその落とし穴をまとめた特集だ。
相続税対策の基本的な手法は、「小規模宅地特例」の利用だ。この特例は、財産を相続した人が、多額の相続税を支払うために自宅を手放すような事態に陥らないように、宅地のうち240平方メートルまでの部分については土地の評価額を80%減額するというもので、今回の税制改正でも330平方メートルまで認められることになった。
ただし、特例を受けるためには、子供が親と同居しているか、子供用の持ち家がないことなどが条件。そこで二世帯住宅にして特例を受けようという住宅メーカーからの提案が急増中だ。
住宅メーカー側も「今すぐは住まないが、将来的なことを考えてとりあえず二世帯にという顧客も増えている」(住宅メーカー社員)という。
また、二階建ての賃貸アパートまで建設し、アパート投資で評価額も圧縮するという手法を組み合わせる手法もある。
こうした住宅は、今年に入ってからというもの、東京23区を中心に急増しているという。
いわゆる“億ション”と呼ばれる高級マンションを購入する手法もある。不動産の評価額は、一般的に購入価格より2~3割下がるため、相続財産を圧縮する効果があるためだ。また、賃貸にすればさらなる圧縮効果が期待でき、大きな相続税対策につながる。
これまでは40~50代が購入層の中心だった。それが、ここ最近は「60代後半から70代の高齢者が増えてきた」と、あるマンションデベロッパーは言う。ここにきてのプチ住宅バブルは相続税対策に住宅メーカーが積極的にPRし、富裕層が動いたものといえそうだ。
14年4月に消費税が上がれば、「おのずと相続税対策に関わるコストも上がる。特に対策の柱でもある不動産は大きな買い物で、消費増税によるコストが節税効果を打ち消してしまいかねない。つまり、相続税対策を取るなら今年がラストチャンスといえるのだ」とダイヤモンドも煽りまくりだ。
ただし、超高層マンションには問題点もある。ライバル誌「週刊東洋経済」(8月10・17日号/東洋経済新報社)の特集「マンション大規模修繕完全マニュアル」では、十数年ごとに行われる大規模修繕工事の懸念を指摘する。「20階を超える最新型のタワーマンションには課題がある。一棟一棟、ゼネコンがその時点で持つ最新の工法を駆使して造られるため、『すべてが実験的建物。修繕も個別対応が必要となる』(専門家)。材料や設備が特注で汎用品が使えないこともしばしば。費用のかさむ条件がそろっている」という。
これは“億ション”と呼ばれる高級マンションも例外ではないのだ。
一方で、金融機関が積極的にPRするのは、今回の税制改正の大きな目玉のひとつ、「教育資金一括贈与」の非課税制度だ。
「教育資金一括贈与」の非課税制度とは、教育資金の贈与について、子、孫、ひ孫など、直系卑属1人当たり1500万円までは非課税となるもの。「孫などを愛する気持ちに加え、これまた相続財産を圧縮できる節税効果に目をつけた人たちが飛びつき、三井住友、三菱UFJ、みずほの3信託銀行によると、7月26日時点で申込件数は合計で約2万200件、金額にして約1400億円に上っている」(ダイヤモンド、以下同)という。
「当初、3信託は制度の贈与期限となる15年末までに、合計5万4000件程度の申し込みを見込んでいたが、わずか4カ月で4割に達する計算だ」とある。
複数の孫やひ孫に贈与できるとあって、数千万円から1億円超の資金を贈与する人が相次ぐほどの過熱ぶりだ。なかには「8人の孫に合わせて1億円余り贈与した人もいる」という。
また、特集記事「着実に狭まる包囲網 難易度上がる資産フライト」では、有効な節税手段として、多くの富裕層が活用してきた海外への資産フライトだが、今年から「国外財産調書」制度も導入される。今年末時点で5000万円を超える国外財産を保有している人は、内容を国税庁に報告しなければならない。もし虚偽を記載したり、提出を怠ったりすれば、1年以下の懲役、または50万円以下の罰金が科される。つまり、海外への資産フライトも難しさを増しており、国内での節税対策が加速しそうだ。
●少子化対策が進まない社会
筆者を含む「相続税は自分には無関係」という読者層にも響きそうなのが、第2特集の「出産・育児は絶望的 産めなきゃ終わりの日本経済」だ。共働きと女性の社会進出が進んだものの、働く女性の出産が困難なものになっている。環境が整備されておらず、非正規社員も資金的に厳しい状況にあるということをレポートした特集だ。
「働く女性が妊娠・出産に当たって職場で受ける精神的・肉体的な嫌がらせはマタニティ・ハラスメント、通称マタハラと呼ばれている。13年5月に日本労働組合総連合会(連合)が行った調査は衝撃的だ。妊娠した働く女性のうち25.6%がマタハラを『経験した』と答え、セクハラ経験の17%を大きく上回った。民主党政権も自民党政権も子育て支援を打ち出しているが状況はよくない。まるで周囲がいっせいに『産むな!』と言っているようなものである」と徹底的に手厳しい。
「例えば、高額な医療費。妊婦は出産前にも定期的な検診が必要で、検診費用に対して自治体から補助金が出るが、全額ではないため、場合によっては1回1万円近くの負担になることがある。出産時にも自治体から数十万円の補助があるが、こちらも全額ではない。『出産の費用も工面できない夫婦が子どもを産むな』と指摘する向きもあるかもしれない。しかし、取材してみると、正社員の共働き夫婦ですら経済的に厳しく、親から資金を借りているケースも少なからずあった」と指摘し、“労働者の味方”であるライバル誌「東洋経済」並みの社会派ぶりを見せている。
第1特集でカネ余り富裕層、第2特集では生活資金に悩む若い女性がクローズアップされており、まさに現代ニッポンの格差社会を象徴しているような特集構成となった。
(文=松井克明/CFP)