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「ダイヤモンド」vs.「東洋経済」! 経済誌双璧比べ読み(9月第4週)

相次ぐ訴訟、大量解雇…アリコの混乱から透ける、不透明な生保業界の問題点

文=松井克明/CFP

相次ぐ訴訟、大量解雇…アリコの混乱から透ける、不透明な生保業界の問題点の画像1「Thinkstock」より
 「週刊ダイヤモンド」(ダイヤモンド社/9月28日号)の第一特集は「離婚・再婚の損得」。「永遠の愛を誓い合って結婚したものの、夫婦関係はさまざまな理由で冷めてしまったり、溝ができたりしてしまう。それが修復できなくなったとき、脳裏に浮かぶのは『離婚』の2文字──。今や離婚も珍しくなくなったが、一時的な感情で突き進み、後悔する人は少なくない。正確な知識を身につけた上で将来の生活を見通し、冷静に判断することが必要だ」という内容だ。

 離婚率は35%。3組に1組が離婚をする時代。市立小学校によってはクラスの半分は母子家庭で、子どもに配慮して父の日の授業参観を廃止してしまった学校もあるほどだという。また、親権の議論も活発化し、昨年4月に民法が改正され、離婚届の右下に「未成年の子がいる場合」は「面会交流の取り決めの有無」などを記入する欄も設けられている。

揺れるメットライフアリコ

 興味深いのは第二特集だ。「メットライフアリコ 崩壊への足音」というガッチリ取材をした特集を組んでいるのだ。

 アリコジャパンは、1973年に日本人向けに販売を開始した外資系生命保険会社の第1号で、日本で40年の歴史を有している。2008年9月に親会社のAIGがサブプライムローンの影響を受けて経営危機に陥り、信用不安が広がって以降、新規契約は急速に落ち込んだ。さらにその直後に、約3万4000件の顧客カード情報の漏えいという不祥事が発生。業績悪化に追い討ちをかける形になった。10年には米国最大の生命保険会社メットライフに買収され、メットライフアリコに。大型販売代理店と組んで、業績回復を目指した(3%にすぎなかったアリコの大型代理店シェアは、現在80%近くにまで膨らんでいる)。

 そのメットライフアリコが、代理店からの訴訟提起や役職員の大量解雇などで揺れているのだ。

 きっかけは、メットライフ本社から送り込まれてきた現経営陣だ。「アリコの買収を成功させ、本社への復帰を狙っている」ために、利益最優先の傾向が目立つのだ。中でも上昇志向が強いのが、8月2日に専務から社長に昇格したサシン・N・シャー氏だ。「米国本社でも浮いている」とされたほどの上昇志向で、「旧アリコの人材はいらない」と発言したり、役職員の退職が多いという質問に対し、「腐ったリンゴは捨てる」といった発言をして、周囲を凍らせているという。次々と社員を切り捨て、「首を切られた支社長たちが面接に続々とやってくる」とは他生保の幹部。今年9月には3専務が同時退任するという異例の事態になっている。

 前代未聞の訴訟沙汰も発生している。3年前に販売された百数十件の法人契約で、独特のカネの流れにより最大で約22億円の損失を被ったとして、アリコは3つの代理店(うち2社は経営統合)に損害賠償を求め、これに代理店側が猛反発して提訴に至っているのだ。

 これまでの大型代理店との関係も大幅に見直すべく、手数料を引き下げる代理店報酬規定を発表した。「手数料の引き下げや社員の首切りによって当面のコストを大幅に下げ、目先の利益をアップさせる腹積もりではないか」と、うがった見方も出ている。しかも、新契約の4割超を占めている大型の代理店の手数料を引き下げるとなれば、代理店側のインセンティブが下がるために、将来的な契約数の落ち込みは避けられないのではないかと特集は指摘する。

 相次ぐトップ交代に怪文書が飛び交う事態。この事態にシャー新社長はインタビューに答え、「こういった買収の際には経営陣の入れ替わりや担当替えはよくあること」、AIGからの分離、メットライフとの統合という「大きな変革の断行中」だと語る。

保険業界の不透明な慣例

 記事を読む限り、一般の保険契約者への影響はない。昨年のアフラック問題ほどのやばさはないのかもしれない。アフラック問題の詳細は『円をアメリカに流す!? アフラックの経営姿勢にかみついたダイヤモンド』(http://biz-journal.jp/2012/07/post_460.html)、『アフラックに異例の金融庁検査…不透明な運用、過度の営業姿勢』(http://biz-journal.jp/2012/12/post_1127.html)を参照いただきたい。

 今回のアリコ問題は、保険会社と販売代理店の取り分(手数料)をめぐる争いが大きくなっただけ、というのが実情のようだ。

 保険業界の不透明さの理由のひとつに“販売代理店”というナゾがある。そもそも、販売代理店の収入源として、生保会社からバックされる「高額な販売手数料」や「紹介料」といった業界独自の慣例があるが、これは結局のところ、保険契約者の保険料に上乗せして徴収した分だ。生保会社にしてみれば、販売代理店制度は、自社営業マンを抱えないコスト削減メリットがあったのだろうが、保険契約者側にはメリットのない、複雑さに拍車をかけるだけの慣例にすぎないのだ。

 複数の保険会社の商品の中から中立の立場で提案することをモットーとしている来店型保険代理店「ほけんの窓口」で、公平さをアピールしながら一部の生保会社の手数料の高い商品ばかりを販売したために、信頼が低下した件があった。ネット生保の登場もあり、こういった業界の慣例がショートカットされつつある。消費者目線で、販売代理店制度ももっと見直されるべきではないだろうか。インタビューでシャー社長は「日本で最も選ばれる保険会社になる、顧客中心主義」をうたっているが、その「顧客」とは販売代理店ではなく、保険契約者であるならば歓迎すべきものだ。

 ダイヤモンド誌も今回はネタ元(?)の販売代理店寄りになってしまったが、次回は保険契約者目線の切り口で、特集タイトルも「販売手数料 崩壊への足音」でいかがだろうか。
(文=松井克明/CFP)

松井克明/CFP

松井克明/CFP

青森明の星短期大学 子ども福祉未来学科コミュニティ福祉専攻 准教授、行政書士・1級FP技能士/CFP

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