法人税率の引き上げ論が政府・与党内で息を吹き返し始めた。2024年度税制改正大綱には企業に対する減税措置がずらりと並ぶが、その一方で引き上げの必要性についても言及されたためだ。これまで法人税率低下の恩恵を受けてきた経済界を中心に警戒感が高まりつつある。
◇「アメとムチ」の法人税
「今後、法人税率の引き上げも視野に入れた検討が必要である」。昨年末に閣議決定した24年度税制改正大綱には、こんな一文が盛り込まれた。
自民党の宮沢洋一税制調査会長は「投資や賃上げをする企業を優遇する一方、それをしない企業に対して一般的な税率を上げて財源を出していただくということだ」と狙いを説明。「アメとムチ」でメリハリ付けを徹底することで、政策減税の実効性を高めたい考えを示した。
24年度税制改正では、半導体、電気自動車など重要物資の国内生産を促す減税措置や知的財産から生じる所得への税優遇が目玉だ。賃上げ促進税制も抜本拡充が決まった。こうした企業向けの大型減税策を講じる代わりに、法人税率にメスが入る可能性が出てきたというわけだ。税率の引き上げとなれば、約40年ぶりとなる。
◇成長志向の改革は失敗か
今回「引き上げ」が大綱に書き込まれた背景には、下がる一方だった法人税率に対する財務省の危機感がある。法人税は税収の約2割を占める基幹税の一つであり、財政健全化のためには法人税収の底上げが欠かせない。
特に安倍政権下では設備投資の活性化を促すため、「成長志向の法人税改革」と銘打って法人税率を引き下げてきた。その結果、法人税(国税)と法人事業税(地方税)などを合わせた法人実効税率は14年度時点で34.62%だったが、18年度には29.74%まで低下した。
ただ、企業の内部留保は、財務省の法人企業統計によると22年度末で555兆円近くに上り、11年連続で過去最高を更新。法人税の引き下げによって、国内企業の投資や賃上げが喚起されたとは言いがたい状況が続く。大綱は「近年の累次の法人税改革は意図した成果を上げてこなかったと言わざるを得ない」と断じた。
◇「しっぺ返し」を警戒
法人税率の引き上げ論を巡り、経済界では波紋が広がり始めた。財界関係者は「今回の改正は『勝ち』だが、来年以降しっぺ返しがあるかもしれない」と神経をとがらせる。
斎藤健経済産業相も「日本の法人実効税率は、G7(先進7カ国)と比較しても、依然として高い水準だ」と強調。「引き上げはようやく生まれてきた潮目の変化に水を差しかねず、慎重であるべきだ」とけん制した。
果たして、税率の引き上げは実現するのだろうか。国際的な法人税の引き下げ競争にも一定の歯止めがかかり始め、議論の土壌は整いつつあると見る向きもある。財務省幹部は「今すぐ法人税を上げるというわけではない」と話すが、いよいよ法人税の在り方を再考する時が来たのかもしれない。(経済部・小林優哉)
(記事提供元=時事通信社)
(2024/02/01-14:12)