●内閣府の試算のカラクリ
13年8月12日付「ダイヤモンド・オンライン」記事『財政再建への遠き道のり 課題先送り「中期財政計画」を検証する――明治大学公共政策大学院教授 田中秀明』では、昨夏のデータを基にした検証だが、「2つのケースが示されているが、基本ケースは、アベノミクスが成功した場合であり、慎重な成長率(それでも1%)は、あくまでも『参考』の位置付けである。民主党政権では、推計で使う成長率を『慎重なもの』とし、世界標準となったにもかかわらず、安倍晋三政権では、これを従来のように『楽観的な』ものにしてしまった。期待成長として、高めの成長率を目標とすることは否定しないが、財政の見通しでは、慎重な成長率を使うのが世界の常識である(2つの成長率を仮定してもよい)」という。
つまり、本来であれば、世界の常識である慎重なシナリオ(参考ケース)で見るべき試算を、楽観的なシナリオ(基本ケース:経済再生ケース)を中心に見てしまっているのだ。慎重シナリオ(参考ケース)で見ると15年の対GDP比はマイナス3.4%となり、10年との比較で半減という目標(マイナス3.3%)さえも、クリアできなくなってしまうため、楽観的シナリオで見たくなる気持ちもわからないではない。安倍政権がアベノミクスの効果を宣伝するために、そうしたカラクリを利用しようとしているわけだが、経済メディアまでが官製発表に引っ張られてしまうのは問題だろう。
試算をちゃんと見ていれば、「世界標準の慎重なシナリオ(参考ケース)では、『15年に基礎的財政収支を10年から半減させ、20年に黒字化』という国際公約がともに達成できないことが明らかになった」と報道すべきものなのだ。
●求められる第三者機関の設置
政府にも改善が求められる。政府の推計は「目標」の数値を「前提」にしているために信頼度が高いとはいえない。07年のある推計では、すでに今頃は黒字化のメドさえついていたことになるほど、推計が当たらなすぎるのだ。
「例えば、『日本経済の進路と戦略 参考試算』(07年1月18日経済財政諮問会議提出)を見ると、10年頃には財政の黒字化のメドがついているという予測になっています。つまり、この通り政策が進んでいれば、今頃には財政の黒字化が実現しているはずです。しかし現実にはなっていません。これは当時の政府の方針を反映した上での推計にすぎないからです」というのは、川出真清日本大学経済学部准教授(『数字か? 直感か? 迷ったら統計学を使え!』<廣済堂新書>)。「日本経済の進路と戦略 参考試算」とは「中長期の経済財政に関する試算」の別称だ。
同試算が出された翌08年にはリーマンショックがあったとはいえ、あまりに楽観的な見通しで議論をしていたことがわかる。そのツケが回ってきているのかもしれない。
「日本では全般かつ10年程度の経済見通しは『内閣府』、財政の3年程度の見通しは『財務省』、社会保障などの長期の見通しは『厚生労働省』と、各種でバラバラの経済推計をしています。(略)政権ごとの政策意図や省庁の事情が反映されていて、科学的ではあるかもしれないけれども中立的とはいえない結果」(同書)になっているという。
アメリカでは議会予算局(CBO)、イギリスでは予算責任局(OBR)という中立的な経済財政を推計する第三者機関があり、政府側の推計との比較検討ができるようになっており、緊張関係がある。OECD(経済協力開発機構)もこの第三者機関の設置を日本に働きかけており、東京財団は独立推計機関の設置を提唱している。しかし、まだまだ第三者機関設置でさえも道半ばというのが日本の現状のようだ。
(文=松井克明/CFP)