今秋以降、クールジャパン推進機構(所管・経済産業省、最大資金量600億円)、民間資金等活用事業推進機構(内閣府、同3200億円)、官民イノベーションプログラム(文部科学省、同1000億円)の3つのファンドが立ち上がる。
今年に入ってからすでに、農林漁業成長産業化支援機構(農林水産省、同2000億円)、環境不動産普及促進機構(国土交通省・環境省、同350億円)、日本政策投資銀行・競争力強化ファンド(財務省、同3000億円)と、3ファンドがスタートしている。
既存のファンドには、中小企業基盤整備機構(経産省、同5191億円)、産業革新機構(経産省、同2兆円)、地域経済活性化支援機構(内閣府、同1兆2000億円)の3つがある。これで主なファンドの数は9つ、総資金量は4兆円に及ぶ。
今年に入ってから設立された6ファンドは、すべて主管する官庁が異なる。投資とはおよそ縁がなさそうな文科省まで名乗りを上げた。すべての省庁がファンドをつくりかねない勢いで増えている。
経産省のクールジャパン推進機構は、日本のアニメや食の海外展開を後押しする。農水省の農林漁業成長産業化支援機構は、第1次産業の国際化に資金を投じる。文科省が立ち上げる官民イノベーションプログラムは、12年度の補正予算で1800億円が計上された「産学共同の研究開発促進のための大学及び研究開発法人に対する出資」事業のうち、1000億円を国立大の研究費につぎ込むものだ。
●日本経済活性化の突破口になるか?
官製ファンドの大義名分は日本経済の活性化。「家計や企業には潤沢な資金があるが、リスクを伴う投資に回らず、国全体の成長が滞っている。官製ファンドが突破口になりリスクマネーの流れが定着すれば、日本経済の活性化につながる」というわけだ。
ファンドだから、利益追求が最大の目的であるが、ビジネスの現場に身を置いた経験のない官僚に、投資案件の将来性を見抜く眼力がどの程度備わっているのかを疑問視する声も多い。官製ファンドの資金源は、特別会計や政府が保証をつけた民間銀行からの借入金であり、投資に失敗すれば、税金のムダ遣いに終わる。
官製ファンドの先駆けである産業革新機構は、アベノミクスの追い風を受けた。
中小型液晶パネルで世界最大手のジャパンディスプレイ(東京都港区、大塚周一社長)が、13年度中に東京証券取引所に上場する方向で検討に入ったからだ。
ジャパンディスプレイは、経産省=産業革新機構が主導し、ソニー、東芝、日立製作所の3社の中小型ディスプレー事業を統合して12年4月に発足した。資本金は3275億円(資本剰余金を含む)。株主構成は産業革新機構が69.52%、ソニー、東芝、日立がそれぞれ9.93%、その他が0.69%である。
今年4月1日、ジャパンディスプレイが3社のディスプレイ事業を引き継いだ関連会社を吸収合併し、スマートフォンやタブレット端末向けの中小液晶パネルの生産に注力してきた。当初は15年度中の上場を目指していたが、株式市場の環境が良いことから、早ければ年内にも東証に上場を申請し、年度内に上場する見通しだ。実現すれば、時価総額が7000億円規模の大型上場になる。株式市場から調達する資金は2000億円規模になるという。
2000億円を出資して69.52%の株式を保有している官製ファンドの産業革新機構は、初めて投資資金を回収できることになる。もとより株価次第だが、投資金の倍以上のリターンもあり得る。
同機構は昨年末、半導体大手のルネサスエレクトロニクスに官民合わせて最大2000億円近い出資を決め、不振が続く国内電機産業の「駆け込み寺」的な存在になった。しかし、「役割を終えた企業を公的資金で救済するのは、日本経済の新陳代謝を阻害しかねない」との厳しい指摘も多い。果たして乱立する官製ファンドは、日本経済活性化の一翼を担うことができるのか。今後の成果に注目が集まっている。
(文=編集部)