発足前から指摘されていたFITの制度的欠陥問題が表面化したのは、昨年9月下旬のこと。九州電力など大手5電力が相次いで「受け入れ能力を上回る」と、再生エネ発電の送電網新規接続申し込みを一時保留(拒否)すると発表。その影響をもろに受ける太陽光発電事業関係者に衝撃を与えた。問題の大きさに驚いた経産省も急遽、FITの見直しに乗り出す騒ぎに発展した。
エネルギー業界で「5電力9月の乱」と呼ばれる騒ぎの背景は、再生エネ発電量の98%をも占める太陽光発電の電源的不安定さにある。雨天時と夜は発電できず、晴天時も曇れば発電量は半分以下に低下する。逆に晴天続きで発電量が増加すると、今度は送電線を流れる電流が乱れ、停電発生要因になる。この太陽光発電の異常な増加をもたらした原因が、FITにほかならない。
12年7月から実施されたFITは、民主党政権の主導で11年8月に成立した「再生可能エネルギー特別措置法」により生まれた再生エネ普及制度。再生エネにより発電された電気を20年間(地熱発電は15年)にわたり、大手電力会社が固定価格で全量買い取ることを義務付けている。加えて、大手電力会社がFITにより買い取った電力費は電気料金に上乗せする仕組みになっている。
その結果、風力発電や地熱発電に比べ事業化が容易な太陽光発電に人気が集まり、「FITで売り上げが保証されているので、参入すれば必ず儲かる」と太陽光発電事業者が激増、瞬く間に太陽光発電バブルが発生した。
制度発足から昨年8月末までのわずか2年余で、原発12基分に相当する1232万kW(設備容量ベース)もの太陽光発電施設が新規建設された。また、同期間中に経産省がFIT適用を認定した再生エネ発電施設の設備容量は7237万kW。うち太陽光発電が6943万kWを占めている。つまり、太陽発電既存設備の5.6倍分が稼働待ち状態。エネルギー業界関係者の間で「太陽光発電バブル」と呼ばれるのも当然といえる。
それだけではない。経産省の試算では、昨年6月末現在の認定分7178万kWの設備がすべて稼働した場合、FITに基づく再生エネ買取額は年間約2兆7000億円。これが20年間続くので総額は約54兆円になる。一方、毎月の電気代に上乗せされる「再エネ発電賦課金」(再生エネ料金)は標準家庭1世帯当たり935円。14年度(225円)の4.2倍に膨れ上がる計算だ。電力消費者は、この上乗せ料金を20年間払い続けなければならない。
「電力消費者の途方もない負担を前提に設計された」(エネルギー業界関係者)といわれるFITは、どのような経緯で制定され、実際はどのような問題を内包しているのだろうか。
買取価格の査定法に問題
電力系シンクタンク研究員は「FITが『欠陥制度』と言われる理由は、買取価格の設定にある」と、次のように説明する。
再生エネの買取価格は有識者5名による「調達価格等算定委員会」が「買取価格・買取期間についての意見」を経済産業大臣に提出し、大臣が「その意見を尊重する」かたちで年度ごとに設定される。ところが「買取価格の査定法に問題がある」(前出研究員)。
買取価格は、再生エネ発電事業者が運転開始時に資源エネルギー庁に提出する「発電設備設置・運転費用年報」(以下、年報)に基づくコストデータに「適正な利潤」を加えて自動的に算定される仕組み。ところが、不思議なことにこのコストデータは算出根拠を示さなくてもよいことになっている。つまり、コストデータの計算諸元は不明なので、第三者による再現が不可能になっているのだ。このため、業界団体や再生エネ発電事業者の言い値が、算定委の買取価格査定にほぼそのまま反映される仕組みになっている。
結果として、FIT実施初年度(12年度)の場合、再生エネ電源16種類の買取価格は事業者や業界団体の言い値をそのまま採用したのが10種類、事業者希望価格に少しプラスした価格が2種類に上った。
また、例えば12年度の非住宅用太陽光発電の場合、システム価格32.5万円/kWhを基に「適正な利潤」を加えた40円/kWhが買取価格と査定された。13年度は年報のシステム価格が28.0万円に下がったことから、買取価格は36円/kWhと査定された。同様の理由で14年度の買取価格は32円/kWhと査定されている。
買取価格は年々下がり続けているが、それでも14年度の32円は、ドイツなどFIT先行国と比べると2倍以上の高水準になっている。その原因は前述の不可解な査定法にある。前出研究員は「再生エネ発電普及により再生エネ発電のコストダウンを促すというFITの政策目的は、不透明な買取価格査定法により実施当初から有名無実化していた」と指摘する。
費用対効果が極めて悪いエネルギー政策
FITの欠陥はそれだけではない。再生エネ専門家は「FIT実施で決まったのは、買取価格と電気代上乗せだけ。本来は再生エネ普及に向けたインフラ整備も決めなければならなかった。とりわけ、出力が不安定な太陽光発電を恒常的な電源にするためには、大容量蓄電池の開発が不可欠。ところがFIT制定に向けた国会審議では、蓄電池問題が実質的に無視された」と振り返る。そして「こうした制度的欠陥が、FITを費用対効果が極めて悪いエネルギー政策にしている」と、次のように指摘する。
FIT実施前に行われていた通称RPS制度では、再生エネ発電1kWh当たりの補助額は平均5.8円(10年度)だった。それがFITでは平均27円と4.7倍にも跳ね上がっている。その結果、CO2削減が1トン当たり5-8万円もかかる非常に高価な温暖化対策にもなっている。
FITがこのように費用対効果が悪いエネルギー政策になっている理由は、制度に効率性の観点が欠落しているため、他の再生エネ電源と比べて最も発電効率が悪く、したがって最も割高な電源の太陽光発電に事業参入が集中していることにある。費用対効果が最悪の発電事業に参入が集中したのは、FITが事業経費と利潤を保証しているからにほかならない。そのツケを消費者がすべて負わされている。
関連業界に広がる困惑
事態を重視した経産省は、「再生エネの発電量が送電網の能力を上回った場合は、大手電力が買取量を制限できる」ことなどを盛り込んだFITの新運用ルールを1月中旬
から実施開始した。
これで大手電力は今年から太陽光発電の無制限買取義務が免除されたことになった。一方、「参入すれば必ず儲かる」保証がなくなった太陽光発電事業関係者たちの間には困惑が広がっている。
大分県内で太陽光発電施設の建設・保守を手掛ける事業者は「買取制限をかけられると、太陽光発電事業計画を中止する客が急増する。今の事業から撤退しなければならない」と肩を落とす。太陽光発電の売電収入をウリに建売住宅を売っている福岡県内の工務店は「売電収入をローン返済の一部に充てる計画を立てられるのが『太陽光発電付き住宅』のメリットだった。今後は、このセールストークが使えなくなる。売上激減が避けられない」と途方に暮れる。
当然、再生エネ発電事業の中核になっているメガソーラー(大規模太陽光発電所)事業者も動揺している。例えば、福島県内の事業者は「仮に送電網接続を2カ月止められたら利益が吹っ飛ぶ。電力会社の買取額が毎月変わるようになると、事業見通しが立たなくなる」と、急なFIT運用変更に憤慨している。
自治体にも影響が出ている。千葉県企業庁関係者は「事業中止を検討せざるを得ない」と、ため息をつく。同庁は県内市原市の山倉ダムの水面約18haに筏方式のメガソーラー建設事業を計画していたが、必ず儲かる保証がなくなった今、この事業応募者が集まらない可能性が高まってきたからだ。
合法的談合システム
こうした太陽光発電事業関係者たちの困惑に対して、前出の再生エネ専門家は次のように指摘する。
「現行電気料金に上乗せされている再エネ発電賦課金が太陽光発電事業者の収益源になるなど、FITは事業者が得をして消費者が損する仕組みになっている。その意味でFITは合法的な談合システム。こんなシステムに守られた安易な事業が立ち行かなくなるのは当然。国が今後もFITを継続するなら、この談合システムを排除した制度再設計が不可欠だ」
一方、証券系シンクタンク関係者も制度転換が必要だと解説する。
「再生エネの普及にFITは有効。だが効率性が欠かせない。最小限の消費者負担で最大限の再生エネ供給ができる仕組みがなければ、FITは逆に普及阻害要因になる。具体的にはFITを即刻廃止し、入札等の競争原理を用いた合理的な再生エネ普及制度への転換が求められている」
エネルギー専門家の多くが「FIT破綻は必然。これは制度実施前から予測していた」と口を揃えるように言う。FITの制度的欠陥がもたらした波紋は、まだまだ広がる気配だ。
(文=福井晋/経済ジャーナリスト)