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町田徹「見たくない日本的現実」

GDPプラス転換はアベノミクスの手柄ではない 消費増税の深刻な後遺症、所得改善の嘘

文=町田徹/経済ジャーナリスト

 
 このグラフをみれば、答えは一目瞭然だ。前期の1.5%増から今回の2.7%に1.2ポイント改善した輸出が唯一最大のけん引役である。輸出の伸びが、原油安もあってあまり増えなかった輸入の伸びを大きく上回り、今回のGDPプラス転換の立役者になったのだ。

●実態は「他人任せ」

 しかし、輸出が伸びた主因が、アベノミクスの一環である円安だと断定するのは早計である。なぜならば、輸出は全世界に向けて万遍なく伸びたわけではないからだ。かつての日本より深刻とされるバブル崩壊に苦しむ中国向けや、ギリシア危機の再燃に揺れる欧州向けの輸出は伸び悩んだ。唯一、気を吐いている米国向け輸出に支えられての輸出の拡大だったのである。言い換えれば、アベノミクスではなく外需頼み、他人任せが輸出拡大の実態だった。

 次いで、2番目に改善幅が大きいのが、前回の0.1%減から0.1%増に0.2ポイントの改善を見せた民間企業の設備投資だ。伸び率そのものは小さく、横ばい圏を脱したとは言い難いが、それでも3期ぶりのプラスになった。こちらは、消費増税後に積み上がった工業製品の在庫、特に自動車など輸送機器や機械の在庫調整がようやく進み始めたことが寄与したものとみられている。とはいえ、いずれも自律調整の域を出ない。

 一方、甘利大臣がいの一番にあげた個人消費は、前期の0.2%増から今回の0.3%増に0.1ポイントの改善で、主要部門の中では3番手の伸びに過ぎない。いくら個人消費の全体に占める割合が大きいからといっても、四半期ベースの実質GDP伸び率のプラス転換の要因の1番手にあげるのは無理がある。

 今回のグラフには加えなかったが、個人を中心にした住宅投資は1.2%減と3期連続でマイナス。こちらは、増税前の駆け込み需要の反動からいまだに抜け出せていない状況が浮き彫りになっている。

 また、アベノミクスの評価を論じるために見逃せないのが、今回0.1%増と前期の0.2%増から0.1ポイント下がった政府支出である。こちらは、ずばりアベノミクスの「第2の矢」(機動的な財政政策)の力不足の象徴だ。

 安倍首相は昨年春から何度も「経済状況を注視し、機動的な財政運営を行ってまいります。とにかく、消費税アップによる経済への悪影響を最小限に抑え、できるだけ速やかに景気が回復軌道に戻るよう、万全を期してまいります」(14年度予算が成立した14年3月20日の記者会見)と繰り返してきた。しかし今回の結果は、首相の公約が十分果たされたとはいえない状況を浮き彫りにしている。原因は、消費増税前に異例の大型補正予算を組んで徹底したバラマキをやったことにある。実際に消費増税が実施された今年度の補正予算規模を縮小せざるを得なかったツケが回ってきたといわざるを得ない。

 念のため、安倍政権の中にも、14年10-12月期のGDP動向を冷静にコメントした閣僚がいたことを指摘しておきたい。それは首相の女房役の官房長官をつとめる菅義偉氏で、甘利大臣の記者会見と同じ2月16日午前の記者会見では、「個人消費の伸びが遅れている。物価の上昇に家庭の所得が追いついておらず、消費者マインドがまだ低水準だ」との認識を示したという。

町田徹/経済ジャーナリスト

町田徹/経済ジャーナリスト

経済ジャーナリスト、ノンフィクション作家。
1960年大阪生まれ。
神戸商科大学(現・兵庫県立大学)卒業。日本経済新聞社に入社。
米ペンシルべニア大学ウォートンスクールに社費留学。
雑誌編集者を経て独立。
2014年~2020年、株式会社ゆうちょ銀行社外取締役。
2019年~ 吉本興業株式会社経営アドバイザリー委員
町田徹 公式サイト

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