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町田徹「見たくない日本的現実」

関電原発差し止め、事実誤認だらけの仮処分決定 狭い視野と不可解な人事、司法の信用失墜

文=町田徹/経済ジャーナリスト

 余談だが、世界レベルといわれる新規制基準は、あくまでも耐震性や津波に対する構造物の強度の基準にすぎない。それゆえ、福島第一原発事故のような事故が絶対に起きないといえないのは、もはや半ば常識だ。

 そこで、必要なのが、いざという時、万人が無事に避難できる避難計画の充実や、事故で泣き寝入りする人を出さない損害賠償制度の再構築、さらには使用済み核燃料や汚染物質の最終処分方針の明確化といった対策である。こうした問題をうやむやにしたまま、強引に原発再稼働を進めている現政権の政策手法こそ、仮処分に当たって福井地裁が問題とすべきだった。

司法に対する国民の信頼を失う恐れ

 視野の狭さは、ほかにも散見される。福井地裁は今回の決定文で、年末に国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の「第21回締約国会議(COP21)」 がフランスのパリで開催されるのを控えて、温暖化ガスの削減目標づくりが急務になっている折に、日本が原発抜きで諸外国の了解を得られるCO2の排出削減策を打ち出せるのかについては、ひと言も言及していない。酷使が目立つ火力発電所の老朽化とダウンが多発する中、原発抜きで、この夏以降も引き続き安定的に電力を確保できるのかという問題にも、福島第一原発事故以降、平均で2割上がったとされる電気料金のさらなる高騰のリスクにも、まったく触れていないのだ。

 直ちに効力を発する仮処分で原発の再稼働を差し止めるのならば、裁判所も、その影響を分析して社会的に許容できるとか、何か代替手段を講じることができるとか、国家レベルの対応のあり方に方向性を示す責任があったはずである。

 客観的に振り返ると、重要な決定を下すには、福井地裁には十分な時間がなかったとしか思えない。決定文は、樋口裁判長自身が14年に下した大飯原発差し止め判決と同じロジックの再利用ばかりが目立つからだ。逆に、時間があれば、原子力規制委員会の委員たちからヒアリングすることも物理的には可能で、田中委員長から指摘されたような初歩的な事実誤認を前提に仮処分の決定を下すという裁判所にあるまじき失態を避けられた可能性が高い。

 そして、最後に残るのが、同じ原発とはいえ、名古屋高裁が人事上の特例措置を採って、あえて14年と同じ樋口裁判長に決定を委ねた判断は、果たして妥当だったといえるかという点だろう。今回のケースが全国的に大きな影響を及ぼす可能性があることは、最初からわかっていたことだ。だとすれば、当然、拙速に一人の裁判官にワンパターンの決定を繰り返させるような対応は避けて、別の裁判長を起用して新たな知見やより幅広い視点をもって的確な決定を下させるべき問題だったはずである。さもなければ、裁判で判例を積み重ねていくことの意味さえ、怪しくなってくる。

 今回のような対応は裁判所や司法全体に対する国民の信頼を大きく傷付ける結果になりかねないことを、名古屋高裁や福井地裁の裁判官たちは肝に銘じるべきである。
(文=町田徹/経済ジャーナリスト)

町田徹/経済ジャーナリスト

町田徹/経済ジャーナリスト

経済ジャーナリスト、ノンフィクション作家。
1960年大阪生まれ。
神戸商科大学(現・兵庫県立大学)卒業。日本経済新聞社に入社。
米ペンシルべニア大学ウォートンスクールに社費留学。
雑誌編集者を経て独立。
2014年~2020年、株式会社ゆうちょ銀行社外取締役。
2019年~ 吉本興業株式会社経営アドバイザリー委員
町田徹 公式サイト

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