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碓井広義「ひとことでは言えない」

NHK大河『真田丸』、これからますますおもしろくなっていくぞ!

文=碓井広義/上智大学文学部新聞学科教授

好調なNHK大河『真田丸』

 NHK大河ドラマ『真田丸』が滑り出しから好調だ。舞台は、幕末と並んで歴史ドラマの“定番”である戦国時代。主人公(堺雅人)は、多くの人が知っている真田信繁(幸村)である。

 信長、秀吉、家康といった大物たちがしのぎを削る激動の時代を、信州の小さな一族である真田家の人びとが、渾身の力と知恵で生き抜いていく。その構造は、どこか昨年の大ヒットドラマ『下町ロケット』を思わせ、判官びいきの日本人の感性に訴えるものがある。久しぶりに、大河らしい大河の登場だ。

 注目は、『新選組!』以来12年ぶりとなる三谷幸喜の脚本である。笑いを得意とする三谷の“やり過ぎ”を心配したが、スパイスとしてのユーモアとなっていて、やや安心した。

 たとえば、こんな場面。信繁の父・真田昌幸(草刈正雄)が一族郎党を前にして、「武田が滅ぶことはない」と断言する。その直後、信繁と兄の信幸(大泉洋)には、「武田は滅びるぞ」と平気で言ってのけるのだ。昌幸の一筋縄ではいかない人柄が愉快だった。

 この草刈をはじめ役者陣も充実している。堺は、一見茫洋(というか、ちょっと変わり者だ)としていながら、後の“戦略家”としての片鱗もうかがわせる信繁をのびのびと演じている。

 大泉も朝ドラ『まれ』のダメ親父から一転して、信繁とは対照的な性格の兄を好演。また、ストーリー上ではすでに亡くなったが、武田勝頼の平岳大が強い存在感を示した。今後も信長の吉田鋼太郎、家康の内野聖陽、上杉景勝の遠藤憲一など、個性的な面々がこの芝居勝負に“本格参入”してくる。男たちの骨太な人間ドラマが期待できそうだ。

 さらに複雑な時代背景を、コンピュータグラフィックス(CG)などでわかりやすく説明するといった細かな工夫も評価したい。

民放ドラマの注目作

 民放にも見るべきものがある。『わたしを離さないで』(TBS系)は、日系イギリス人作家、カズオ・イシグロの長編小説に挑んだ野心作だ。

 主人公(綾瀬はるか)は、少女時代を仲間と共に世間から隔離された施設で過ごした。なぜか図画工作の授業が重視され、頻繁に健康診断が行われる日々が続き、ある時、彼らは自分たちが負っている「特別な使命」を知らされる。

 舞台はイギリスから日本に移されたが、静謐で謎に満ちた物語の雰囲気は変わらない。「生きるとは何か」という重いテーマで、内容も暗いため万人受けしないかもしれないが、質はかなり高い。一見の価値はあるドラマだ。

碓井広義/上智大学文学部新聞学科教授

碓井広義/上智大学文学部新聞学科教授

1955(昭和30)年、長野県生まれ。メディア文化評論家。2020(令和2)年3月まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。慶應義塾大学法学部政治学科卒。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年、テレビマンユニオンに参加、以後20年間ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に『人間ドキュメント 夏目雅子物語』など。著書に『テレビの教科書』、『ドラマへの遺言』(倉本聰との共著)など、編著に『倉本聰の言葉――ドラマの中の名言』がある。

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