(4)記者のレベルが異常に高い
週刊誌の世界で一口に「記者」といっても2種類ある。将来のデスク編集長候補で、一流大学出身のいわゆるキャリアである「社員記者」と、年棒制の「契約専属記者」だ。
一般的な週刊誌では、社員記者が司令塔となり、複数の専属記者が現場に飛んで取材する。専属記者は取材後、取材データを整理し、社員記者がそのデータをもとに原稿を書く。つまり、社員記者は現場に来ることはない「アンカーマン」であり、専属記者は原稿を書かない「データマン」という扱いになっているのだ。
ところが、文春では組織のシステムそのものが根本的に違う。専属記者は他誌で10年以上経験したベテラン揃い。初心者は見向きもされず、他誌で実績を残した記者をヘッドハンティングするかたちで採用している。そんな、あらゆる修羅場を潜り抜けてきた海千山千の専属記者の下に、若手の社員記者が見習いで付き、徹底的に社員を現場で鍛えあげるという仕組みなのだ。
そして、原稿は他誌のように社員記者が書くのではなく、専属記者本人が責任を持って書きあげる。当たり前のことだが、現場にも行っていない者が臨場感のある原稿を書けるわけがないという考えからだ。
「私が文春に来た時に一番驚いたのが、社員記者のレベルの高さです。文春の社員記者の優秀さには度肝を抜かれました。出版社系週刊誌には伝統のようにアンカーマン、データマンのシステムが受け継がれていますが、悪しき風習だと思いますよ」(X氏)
(5)厳選された取材ネタ
文春編集部では毎週木曜日に、デスク、社員記者、専属記者が集まり、プラン会議を行う。持ち寄る取材ネタについては「ひとり5本」というノルマがあり、一人ひとりがプレゼンをするかたちで会議が進んでいく。
総スタッフ数は約50名いるので、毎週250本のネタが集まり、その後のデスク会議において250本の中から厳選された20本が選ばれ、取材チームが編成されて、取材がスタートしていくのだ。
「下手なネタを会議で出そうものならバカにされるため、若手もベテランも毎週のネタ出しに命を捧げています」(X氏)
文春は理念に基づいた編集方針を貫き、組織運営まで徹底的に運用することで、結果的に他誌に先駆けた報道ができ、ビジネスも成立するという好循環が成り立っているのである。これは決して雑誌業界だけの話ではなく、一般のビジネスにおいても参考にすべき点が多いといえるだろう。
(文=新田龍/株式会社ヴィベアータ代表取締役、ブラック企業アナリスト)