オウム真理教の急拡大に「寄与」した日本のメディア環境は、今も何ひとつ変わっていない
メディア露出によって「エンゲージメント」と「認知」を高めた
通常、私が企業や商品のヒットを分析する際には、「エンゲージメント」と「認知」に分解整理して要因を読み解くことが多い。ざっくりと公式化すると以下のようになる。
「エンゲージメント」とは、特定の企業、商品、ブランドとの絆を表す指標だ。熱烈なファンや、好意を持っている人々との“関係性の濃さ”“熱量”といった意味合いだ。「認知」とは、文字通りどのくらいの人が知ってくれているのかを指す。この公式は、台風の勢力を推し測るのと良く似ている。一般的に台風の階級は「風速(knot)」×「大きさ(半径)」で表し、風速が強く、半径の大きい台風は甚大な影響力を持つとされる。同様のことが、企業のコミュニケーションを読み解く際にも当てはめることができる。
オウム真理教の設立から拡大の流れを、この「エンゲージメント」と「認知」のフレームで整理したものが【図3】だ。通常の企業コミュニケーション分析では、「エンゲージメント」や「認知」を具体指標で計測・算出するのだが、もちろんオウム真理教に関するデータは持ち合わせていない。あくまで同様の考え方を基に、【図1】の要素から3つのフェーズごとに「エンゲージメント」と「認知」に対し、何が寄与したのかを定性的にイメージとして可視化を試みた。
まず、宗教法人化する前の「教義確立期」は、神秘体験をフックにエンゲージメントを形成し、その体験をオカルト雑誌やテレビ番組で取り上げられることで認知を増大させることに成功した。
第二のフェーズとしての「教団拡大期」では、宗教法人化と出家制度を導入したことで、巨大な擬似家族として教団内でのエンゲージメントを高め、それと同時に各種メディアでの疑惑報道、批判が過熱し、認知が急激に拡大。さらに、総選挙出馬によって大人から子供まで話題にする集団になっていった。
そして、選挙惨敗後は、その失敗の要因を国家の陰謀であったと教団にとって都合の良いロジックで固め、ハルマゲドン予言と共に、反社会組織としての色合いを強めていった。「軍拡暴走期」と私がとらえている第三のフェーズは、悪しき社会と対立し、世界を救済するビジョンと、バブル崩壊後の喪失感も相まって、信者とのエンゲージメントを高めていったのではないかと思われる。そして、激しいバッシングにさらされながらも、時に一部の文化人などから擁護されたり、風変わりな教団として嘲笑の対象になったりしながら、地下鉄サリン事件に至る暴走の一途をたどることとなった。
このように各フェーズごとに、教団活動の思想・方針と、メディアでの露出が相互に作用し合い、PR効果をもたらしながらエンゲージメントと認知を同時に形成し、拡大・暴走していったのではないかと考えている。