NHK捏造問題、頑なに「やらせ」を認めず「過剰な演出」強弁の理由 信頼失墜の公共放送
やらせと過剰な演出の間
かつて、テレビ番組のやらせが大問題となったことが何度もあった。1985年、『アフタヌーンショー』(テレビ朝日系)で、制作側が仕組んだ暴行場面が放送された「やらせリンチ事件」。92年、『素敵にドキュメント 追跡! OL・女子大生の性24時』(朝日放送系)で、男性モデルと女性スタッフに一般のカップルを演じさせたケース。同年、『NHKスペシャル 奥ヒマラヤ・禁断の王国ムスタン』での「やらせ高山病」シーン。その後も2007年に、『発掘!あるある大事典2』(関西テレビ系)で捏造問題が起きている。いずれも番組自体が打ち切りになったり、テレビ局トップの責任が問われたりしてきた。
もしNHKが今回、『クロ現』におけるやらせを認めた場合、ダメージは相当大きいものになるだろう。なぜなら同番組はやらせとは無縁であるべき報道番組であり、NHKの看板番組の一つでもある。その影響を考えれば、是が非でも報告書から「やらせ」という言葉を排除し、あくまで「過剰な演出」という着地を目指した可能性は十分にある。
筆者は『クロ現』という番組自体は高く評価している。社会的なテーマを掘り下げ、内容の質をキープしながらデイリーで伝え続けていることに敬意を表したい。それだけに、今回のような番組づくりは残念であり、当事者である記者には憤りを感じる。番組のみならずNHKという公共放送、さらにテレビジャーナリズム全体に対する信頼感を大きく損なったからだ。
今回の報告書では、この記者が関わった他の番組でもB氏を登場させていることに触れている。しかし、その内容について詳細な検証は行っていない。あくまでも、この番組における過剰な演出を指摘することで終わっている。果たして、それでいいのか。
また、くだんのA氏も「今後は、BPO(放送倫理・番組向上機構)の手続きにおいて、私の名誉が回復されるよう努めていきます」というコメントを出している。もしもBPOがこの番組の審議入りを認めることになれば、この問題の本質に迫る“第2章”が始まるかもしれない。
(文=碓井広義/上智大学文学部新聞学科教授)