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小笠原泰『生き残るためには急速に変わらざるを得ない企業』

本流社長・V字回復パナソニック=勝ち組、傍流社長・不振深刻ソニー=負け組、は正しいか

文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授

 一方のパナソニックは、取締役17人とソニーよりも5人多い。そのうち社外取締役は3名とこちらは格段に少ない。構成をみると、津賀社長のほかに、長榮周作代表取締役会長(前パナソニック電工社長)と松下正幸代表取締役副会長(松下幸之助の孫)という重鎮がいる。加えて、代表取締役が9人という多さである。代表取締役と表記しているので、委員会設置会社ではない。また、14年2月26日時点で、社内取締役14人のうちの9人(経理・財務と渉外担当2名を含む)が責任担当部門を持っており、執行役員制度との重複が見られる。パナソニックはうまく機能分担しているとしているが、日本企業の組織文化を考えると現実的には難しいのではないか(http://panasonic.co.jp/ir/reference/pdf/pcg.pdf)。 
  
 本来、業務の執行ではなく、企業全体の業務の決定と監督をつかさどるのが取締役の職務である。これは委員会設置会社ではもちろん、そうでない会社であっても同様である。取締役会を設置しているにもかかわらず委員会設置会社とせず、各取締役が個別事業の担当を持つパナソニックは、これまでの因習的な日本企業の特徴を強く残すとも言えよう(http://panasonic.co.jp/company/info/executive/ :http://www.nikkei.com/markets/ir/irftp/data/tdnr/tdnetg3/20140226/8jtcy9/140120140226011921.pdf)。
 
 米国企業では、経営トップのCEOが業務執行上で強大な権限を持つので、その対抗機関として取締役会が存在する。そして、株主総会で選任された取締役の半数以上が社外取締役によって占められている。CEO以外はすべて社外取締役というケースもある。これが米国大企業のガバナンスの常識である。このような解説を行うと、株主利益優先の形態であると指摘されがちだが、デファクトであることは否定できない。

 技術進歩と融合化して加速化するグローバル化がもたらす大きなかつ急激な環境変化に対し、迅速に適応する判断を行っていくためには、ソニーとパナソニックの組織体制のどちらの成功確率が高いであろうか。

●社是

 次は、両社の社是を見てみよう。ソニーの社是は、「真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」であり、パナソニックのそれは「産業人たるの本分に徹し 社会生活の改善と向上を図り 世界文化の進展に寄与せんことを期す」である。経営者にまで品格を求めるという日本的な特殊事情を抜きに考えると、一般的にどちらの社是が評価されるであろうか。ちなみにこの日本的な特殊事情は、何かにつけて技(技能)に人品を組み合わせるという、段位制を取る日本人の好む「何々道」であろう。人品とワンセットの段位では人品が劣化しては困るので、ランキングと違い段位は降格しない。経営に「道」の概念を当てはめ、経営者に人品を求めたのは松下幸之助氏が創立したPHP研究所であろうか。

 また、創業者の象徴的な言葉を見てみよう。ソニー創業者である井深氏の言葉に「たわいのない夢を大切にすることから、革新が生まれる」というものがある。また、パナソニック創業者である松下氏の言葉に「世の為、人の為になり、ひいては自分の為になるということをやったら、必ず成就します」というものがある。これについても経営者としての人品を抜きにして、企業家として、どちらの言葉が評価されるであろうか。

小笠原泰/明治大学国際日本学部教授

小笠原泰/明治大学国際日本学部教授

1957年生まれ。東京大学卒、シカゴ大学国際政治経済学・経営学修士。McKinsey&Co.、Volkswagen本社、Cargill本社、同オランダ、イギリス法人勤務を経てNTTデータ研究所へ。同社パートナーを経て2009年より現職。主著に『CNC ネットワーク革命』『日本的改革の探求』『なんとなく日本人』、共著に『日本型イノベーションのすすめ』『2050 老人大国の現実』など。
明治大学 小笠原 泰 OGASAWARA Yasushi

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