これまでに、作曲家がこぞって題材として取り上げて来た話といえば、ダンテが代表作『神曲』の中で書き、シェイクスピアが戯曲にまとめ上げた若い男女の悲恋の物語――、『ロミオとジュリエット』でしょう。
古い世代であれば、オリヴィア・ハッセーがジュリエットを演じた映画に涙した方も多いと思います。『ロミオとジュリエット』は、純粋に恋をしている若い2人が、お互いの家族が憎しみ合っているために引き裂かれてしまう悲劇です。僕は今、話題になっている小室圭さんと眞子妃殿下の話を聞いていると、『ロミオとジュリエット』を思い出してしまいます。
「恋をした相手が天皇家の妃殿下だった」「恋をしたけれども自分は天皇家に生まれていた」――。
僕は、「好きだから、2人でずっと一緒にいたい」というお2人の純粋な気持ちを一番大切にしてあげたいと思いますし、いつかお2人で幸せに暮らされることを願っています。
しかし、『ロミオとジュリエット』は、ご存じの通り、ハッピーエンドにはなりませんでした。
残酷な運命のいたずらで、ロミオはジュリエットの従兄弟を殺してしまいます。ジュリエットの家族にとっては大事な親戚が殺されたわけで、2人が結ばれるチャンスは、もうなくなってしまったのです。その後、人殺しの罪により街を追放されていたロミオですが、ジュリエットが毒をあおって死んだと伝えられ、慌てて戻って来ます。そして、ジュリエットの亡骸の前でロミオは剣で自分を刺して死んでしまうのです。
ところが、この毒は短い時間、仮死状態になるという代物で、ロミオが死んだすぐ後にジュリエットは息を吹き返します。実は、両家を騙してジュリエットは死んだことにして、追放されているロミオのもとにこっそりと行く計画だったのですが、それはロミオに伝わらなかったのです。ジュリエットはロミオが死んでしまったことを知り、自分も剣を胸に当てて死んでしまいます。そんな悲劇を知った両家は深く反省し、これからは平和に過ごそうと誓い合う、という物語です。
ところで、そんな仮死状態をつくる毒なんてあるのでしょうか。実は、それが日本にはあるんです。ずばり、フグの毒です。知人の医師に聞いたことがあるのですが、フグの毒はテトロドトキシンといって、神経をマヒさせてしまうために呼吸ができなくなり、死に至ります。毒を摂取した場合でも、人工呼吸器で呼吸を確保し、あとは体内から毒が排出されるのを待てば、高い確率で助かるそうです。まだ医学が発達していない時代には、フグの毒に当たって死んだと思っても、幸運にも毒が薄く、実際は仮死状態に陥っていただけで、お通夜などで息を吹き返すようなこともあったそうです。