クラシック音楽のバロック、バッハやヘンデルの音楽は今より独創的…岡本太郎との共通点も
現代の日本人は、縄文人のDNAを約10%受け継いでいるということを、国立科学博物館などの研究チームが発表しました。縄文人は狩猟民族として知られていますが、肉や魚を消化しやすい体質の遺伝子を持っていたそうです。夏には海のアザラシ、冬は山のシカやイノシシを食べ、カツオ、マグロ、サケ、貝類、クジラ、ブドウ、栗を楽しんでいたとみられており、今の時代から考えても、かなりグルメな生活を送っていたようです。
この研究に当たっては、北海道・礼文島の船泊遺跡から出土した3500年前の縄文女性のDNAを分析しています。この女性は、お酒に強かったということまでわかったそうです。今でも縄文人のDNAを色濃く残しているのは、北海道のアイヌ民族、沖縄人ということですが、同じく縄文人の比率が高い九州、東北地区も含めて、お酒がとても強い人が多いのは有名です。九州・沖縄地方の人々は度数の高い焼酎を好みますし、東北には日本酒の名産地が多く、東北の人々は酒量も多い傾向にあります。縄文人は、ビール1杯で赤くなってしまう傾向がある弥生人とは違うといえるでしょう。
縄文人は、お酒をたしなみながら、燻製、塩漬け、煮干しもつくっていたようで、今まで考えられていたような「縄文人=原始生活」とは、イメージが変わってきます。少人数で移動しながら狩猟を行う縄文人とは違い、その後やって来た弥生人は、米づくりにより集団での定住生活を可能にし、土地や財産の所有権という概念が生まれました。その結果、土地を束ねて外敵から住民を守る権力者が生まれたことは自然な流れといえ、それが国家に成長したという歴史が日本にはあります。とはいえ、食生活の豊かさだけを考えれば、弥生人は移動をしながら各地のさまざまな肉、魚介類、木の実を食べている縄文人には及びません。これを芸術の分野でも見抜いたのは、芸術家の故岡本太郎氏です。
彼は著書『日本の伝統』(講談社)の中で、このように書いています。
「私が思わずうなってしまったのは、縄文土器に触れたときです。からだじゅうが引っ掻き回されるような気がしました。やがてなんともいえない快感が血管の中をかけめぐり、モリモリ力があふれ、吹きおこるのを覚えたのです」
岡本氏は、あえて平仮名を多用した文章を書いて、その感動を音化しているわけですが、それに引き換え弥生式土器については漢字を使い「縄文時期と正反対の整形された幾何学的な均衡と、柔和な優美さがあり、このあたりが今日考えられている日本の美、伝統のふるさとと思われる」と書き記しています。
自然を相手にしながら、山野を越え、満腹と飢えを繰り返しながら、少人数で移動を続ける縄文人。ご存じの通り、日本は火山列島で起伏が多く、海は海流がぶつかり、とても変化に富んだ、美しい自然に恵まれた土地です。そんな刺激を受け続けている縄文人と、起伏が少なければ少ないほど作物の栽培に便利な土地に定住し、毎日同じ光景を眺めている弥生人とでは、美意識が大きく変わってくるのは当然です。縄文芸術は岡本作品のように変化と衝撃に富んでいる半面、弥生芸術は弥生土器のような単純な美をとことん突き詰め、様式化されて現在の日本の美につながっているのだと思います。