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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

クラシック音楽のバロック、バッハやヘンデルの音楽は今より独創的…岡本太郎との共通点も

文=篠崎靖男/指揮者

クラシック音楽誕生

 岡本氏は、縄文芸術という古い過去の美意識を発見し、自分の芸術で再び花開かせたわけですが、過去の美を再発見し独自の芸術をつくりだしたという点では、モーツァルトやベートーヴェンにも共通しています。とはいえ、彼らが独自に考えたというのではなく、同時代に活躍した“古典派”と呼ばれる作曲家たち、さらに芸術家たちにも通じる話です。

 皆さんは小中学校の音楽の授業で、バロック→古典→ロマン派と時代が進んできたと習われたと思います。ちなみに、バッハやヘンデルが活躍したバロック時代は、少し古めかしい感じがすると思いますが、実はまったく反対です。バロックという言葉は、“真珠や宝石のいびつな形”という意味を持っていて、それ以前のルネサンス芸術から考えると、実際にはアバンギャルドな芸術なのです。バッハやヘンデルの音楽を聴いてみると、独創性に富んでいるという点では、今の音楽以上かもしれません。

 そんな時代が進んできて、少し倦怠化してきたころに、イタリアのナポリの近郊で大きな発見がありました。それが、世界遺産にも登録されているポンペイの古代都市遺跡です。西暦79年、キリスト教徒の迫害で有名なローマの暴君・ネロ皇帝が死んで10年ほどたった頃、ヴェスヴィオ火山の大噴火により一瞬にして火山灰の下に埋もれた古代都市です。これが発掘されたのが、1748年です。

 この発見はヨーロッパ中の芸術家たちに大きな衝撃を与えました。火山灰の厚い層が、当時の様子をしっかりと保存してくれていたことで、1世紀のローマ帝国に花開いた彫像、建築がはっきりとよみがえり、それまで考えられていた“いびつな形=バロック”という印象とはまったく違う、様式美を持ちながらもエネルギーに溢れた芸術に、当時の人々は夢中になったのです。もちろん、流行に敏感な芸術家たちは、その様式美を取り入れて、新しい芸術をつくり始めました。それが、1700年も前の古い遺跡の再発見から始まったので、“古典派”と呼ばれるようになりました。

 そんな時代に作曲家たちは、様式美の極致でもある交響曲やピアノ曲に使われる「ソナタ形式」を確立したわけです。ちなみに、モーツァルトも少年時代にポンペイの遺跡を訪ねたと、記録に残っています。

 この古典派の時代に、モーツァルトやベートーヴェンのように、クラシック音楽の正統的かつ模範的な音楽作品が生まれたわけですが、「クラシック」こそ古典という意味です。語源としては、ポンペイ遺跡の発掘により一大ブームになったギリシャ・ローマ芸術から来ています。クラシックは、古代ローマ時代における6つの階級の中の最高階級を表し、「正統的な、模範的な」というラテン語「classici」に由来しています。つまり、クラシック音楽は、本来ならば「正統派フレンチレストラン」と同じく、「正統派音楽」ともいえるのです。
(文=篠崎靖男/指揮者)

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

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