今回は、今年夏の注目のCMを2本紹介したい。
明治『果汁グミ』変身ぶどう篇
グミは不思議な食べ物だ。成分は果汁などとゼラチン。名称はゴムを意味するドイツ語が由来だ。歯の健康に寄与する菓子という発想が、いかにもドイツっぽいではないか。
日本では1980年発売の『コーラアップ』が、初のグミ製品となる。発売はもちろん明治(当時は明治製菓)だ。以来35年、最近ではグミと聞けば、『果汁グミ』と共に石原さとみの顔を思い出す。
今回、石原はOLさんだ。エレベーターの中で、「これ、辛抱たまらん。けしからん」と果汁グミを口に入れる。すると、ぶどう柄の衣装へと大変身。
その姿、かなりかわいいのだが、上司には「魔女?」と聞かれてしまう。ムッとしながら、「妖精だわ」と、なぜか名古屋弁風のアクセントで言い返す様子がまた笑える。
石原といえば、あの魅力的な唇だ。グミじゃなくても吸い寄せられるだろう。しかし今回、カメラはそんな唇のアップを撮らないし、見せてくれない。
この自制心、この寸止め感。いや、だからこそ、また見たくなるのだ。実にけしからん唇であり、けしからんCMである。
サントリー食品インターナショナル『ペプシストロング ゼロ』桃太郎「Episode.3」篇
物語CMの傑作として、すっかり定着した人気シリーズの最新作。今回スポットが当たるのは桃太郎の仲間であるキジだ。
力で一族を支配していた兄のカラスが鬼の仲間となった上、自らも鬼と化してしまう悲劇が語られる。圧倒的な想像力と映像で生み出されるのは、炎の戦場である。
それにしても、なぜ「桃太郎」の物語なのか。理由としてまず挙げられるのは、多くの人が常識として共有する、日本一有名なストーリーとキャラクターだということだ。
次に、昔の和歌(本歌)を自作に取り込んでいく技法、「本歌取り」の伝統に則った作品であること。イメージを重ね合わせることで、奥行きのある世界を現出させることができる。
さらに、近年当たり前になった、先行する創作物のキャラクターを利用した「二次創作」にも該当する。原作である昔話の「桃太郎」とは完全な別世界で、壮大かつスリリングな物語が展開されていく。
「本歌取り」と「二次創作」。つまり、実は古くて新しいクリエイティブのかたちがここにあるのだ。
小栗旬演じる桃太郎が、“自分より強いヤツ”を倒すには、強力な仲間の存在が不可欠だ。友情・努力・勝利は、「週刊少年ジャンプ」(集英社)のモットーでもある。桃太郎と仲間たちの戦いの旅は、なおも続く。
(文=碓井広義/上智大学文学部新聞学科教授)