突然だが「悪夢」を見たことはあるだろうか?
筆者はまれに「手足を縛られた状態で海に投げ込まれる夢」を見ることがあるのだが、他にも高いところから突き落とされたり、人から脅迫や暴力を受けたり、自分の悪事が暴かれたりと、人によっていろいろあるようだ。
こういう時に気になるのが「自分の精神状態」である。夢は心を映し出すと言われるため、嫌な夢を見ると「何らかの精神疾患の前兆では?」と心配になる人は多いだろう。
真っ先に思い浮かぶのが「うつ」だ。「睡眠」と「うつ」の関係はかねがね指摘されているが、「悪夢」についてはこれまで語られてこなかった。
「悪夢」は「うつ」の前兆なのだろうか?
「悪夢」はうつの前兆か?
精神科医でスタンフォード大学の西多昌規氏は、著書『悪夢障害』(幻冬舎/刊)で、アメリカでの調査を取り上げている。
同大学教授のモーリス・オヘイヨンらが一般市民5622人を対象に行った電話インタビューによると、そのうち不眠症に該当する人が1049人いたという。そしてこの1049人のうち、実に18%が悪夢を見ていた。そして悪夢を見ていた人の34.8%はうつ病に類似した症状を示していたそうだ。
悪夢を見ない人でうつの症状が出ている人の割合は15.3%だったため、悪夢を見る人はそうでない人に比べて約2倍うつになりやすいことになる。
この結果だけを見ると「不眠」と「うつ」に何らかの関係があるとも考えられるため、「悪夢はうつの前兆」と結論づけすることはできない。しかし、今後、両者の間に何らかの関係があるとする研究結果が出ることは十分に考えられる。
悪夢がメンタルにもたらすポジティブな働きとは?
ただ、「悪夢」には「癒しの力」があるとする説もある。
具体的にいうと、悪夢には日常的なネガティブな体験を、過去の体験と結びつけて、ポジティブな方向に感情処理する機能があるのではないかという説だ。
ある実験によると、健常者を「抑うつ的でない元気なグループ」と「抑うつ的なグループ」に分けて、夢に込められる感情の違いを調べたところ、「抑うつ的でないグループ」は睡眠後半での夢のネガティブ度が高かったのに対し、「抑うつ的なグループ」は意外にも低かったという。
悪夢が抑うつや不安を癒すことを示す神経学的な証拠はまだまだ乏しいとされているが、この結果は、悪夢には苦難や困難を跳ね返す「抗ストレス力」が備わっている可能性を示しているといえるだろう。
「禁煙」で悪夢が増える?
ここまでは「悪夢」とメンタルの関係について紹介してきたが、少し見方を変えるとより日常的な「悪夢」の影響が見えてくる。
一例が「禁煙」と「悪夢」の関係だ。
タバコをやめることで、多くの場合イライラしたりストレスを感じたりといった禁断症状があらわれるが、悪夢はそういった時期に増えるという。同じように「アルコール依存症」の患者が治療などで飲酒を中断した時なども、悪夢を見ることが多いようだ。
これを知っておけば、悪夢を見たからといって動揺することなく、禁煙や禁酒を続けることができるのではないだろうか。
ほかにも、睡眠時無呼吸症候群や睡眠薬の副作用による悪夢など、医学的な情報も豊富である。普段深く考えることの少ない「悪夢」だが、実際は「うつ」や「睡眠障害」、「自殺」など、私たちが抱えている、心身の様々な問題と関係し、その存在を示唆する。
本書では、夢の中でも「悪夢」に焦点を絞り、その原因や起こりやすい状況、そして悪夢との付き合い方などが解説されているため、自分の「夢」が気がかりな人は参考になる部分が多いのではないか。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。