やはり認知症は治らない? 早期発見と薬治療に有効性認められず、副作用増も
本連載の前回記事では、認知症の早期発見の必要条件として以下の2つを示したが、今回は2つ目の「有効な治療があるか」について考えてみたい。
(1)正常者と異常者を区別する境界が明確であること
(2)早期の患者に対して有効な治療があること
まず薬による治療に関しては、早期の認知機能異常者に対して薬を投与してその効果を検討、研究結果をまとめた、質の高い論文がある。それによれば、アリセプトなどの認知症治療薬を早期に使ったとしても、治療をした群では認知症の進行が遅い傾向にあるものの、統計学的に明らかな差ではなく、下痢や吐き気などの副作用が統計学的にも有意に増加するという結果である。この結果はサイト「CMEC-TV」で詳細な解説を聞くことができるので、参照していただきたい。
この研究結果をまとめると、認知症をごく早期に見つけて薬で治療したとしても、その効果は明らかでなく、副作用の増加は明らかというとんでもない内容である。
前回書いたように、認知症では正常と異常の境目が明らかでなく、薬による早期の治療効果も明らかでないとなると、認知症の早期発見について前述した必要条件を2つとも満たしておらず、安易に早期発見が重要とはいえないことばかりか、むしろしないほうがいいということになる。
もちろん治療は薬ばかりではなく、薬以外にもさまざまなものがある。しかし、それらの多くは効果があるかどうか検討すらされていないものが多い。良かれと思って行われて はいるが、本当のところどういう効果があるかわからない治療が大部分である。
今回取り上げた薬の効果は、その中で早くから検証が行われてきたわけだが、その効果はどうやらはっきりしないということが示されているだけなのである。
早期発見の必要条件すら満たしていない認知症に対して、国や市町村を挙げて取り組もうというのは、極めて異常な事態にほかならない。困ったことである。
(文=名郷直樹/武蔵国分寺公園クリニック)