大量に取れたときに凍結保存
食品の加工、保存技術は時代とともに進歩してきました。農産物は季節に応じ、旬の作物が大量に収穫されます。トマトがたくさん取れたときは、ケチャップやトマトジュースに加工して保管されます。生のトマトのまま消費地まで運ぶよりも、加工したほうが輸送も簡単になります。
牛乳を生乳で販売しきれないときには、粉乳やチーズなどに加工し、保存できる状態にします。卵も販売しきれないものは液卵にし、凍結することで無駄にならないようにしています。たとえば、クリスマスなどでケーキ需要が増えるときは、夏に余った凍結液卵を使用しているのです。
水産物も、旬の時期は一度に大量に捕獲します。かまぼこの原料に使用するタラは、捕獲後船の上ですり身にし、そのまま凍結してから陸揚げされます。かまぼこメーカーは、その凍結されたすり身をかまぼこに加工します。
このように、食材を凍結、加工することで食材の流通や保管が容易になったのです。
合理化のための凍結保管
駅ナカにある立ち食いそば店は、冷凍麺を使用する例が増えてきました。空港の飲食店でも、ほとんどの麺が冷凍だと思います。生麺は調理が容易なのですが、売れ残ったときの対応が面倒です。冷凍麺ならば、売れ残っても冷凍保管しておけばロスになりません。
おせち料理をつくらない家庭でも、正月にかまぼこぐらいは食べようかと購入している場合もあるでしょう。ある年末に、筆者がスーパーマーケットの売り場で経験したことです。配送されてきた段ボールを開けると、中のかまぼこは凍ったままでした。かまぼこメーカーの凍結庫から常温で解凍しながらスーパーまで運ばれてきたのですが、まだ溶けていなかったのです。
かまぼこは蒸し立てが一番おいしく、凍結するとスカスカになってしまいます。いつも400円くらいで売られているかまぼこが、年末は2000円になっているにもかかわらずおいしくないのです。かまぼこは急速凍結しても、食感が落ちるように思います。
正月におせち料理を食べる習慣が少なくなってきたのは、それぞれの家庭でつくらなくなったこともありますが、「こうすれば生産コストが下がる」と安易に凍結処理している工場の製品を食べた人が、「市販のおせち料理はおいしくない」と感じて離れていったせいもあるかもしれません。
おせち料理を購入するときは、凍結処理されているのかどうか確認することをお勧めします。特にかまぼこが凍結されている場合、おいしいおせち料理は期待できません。
(文=河岸宏和/食品安全教育研究所代表)