すき焼きは、砂糖を入れて、卵の黄身をつけて食べるので、安い肉でもおいしく食べることのできる料理ですが、牛肉の甘み、おいしさを感じられない場合もあります。
日本産の牛は、生まれた時に両耳に黄色い札がつけられ、個体識別番号で管理されています。どこで生まれて、どこで育ったのか、インターネット上で簡単に調べることができます(https://www.id.nlbc.go.jp/top.html)。スーパーで売られている牛肉も、1パックごとに個体識別番号がつけられ、産地偽装などができないように管理されています。従って、粗悪な肉に高い値段がつけられているわけではありません。
では、なぜおいしくないと感じる牛肉を買ってしまうのでしょうか。
実は、産地などよりも、売り場で並んでいる牛肉がいつスライスされたかが、おいしさに直結しているのです。
おいしいすき焼き店に行くと、注文してから牛肉をスライスしてくれます。スライスした状態で放置しておくと、切断面からうまみの含まれているドリップが流れ出てしまいます。
対面販売している精肉店で、スライスして冷蔵ケースの中で保管し、売れ残ると少量ずつパックして販売する場合があります。スライスした状態で出てしまったドリップは、パック詰めする際に拭き取ってしまうので、パックの中にはドリップが溜まっておらず、消費者にはわかりません。ひどい店では、スライスしてから2日たった肉をパックしている場合もあるのです。
スーパーによっては、外注の工場でスライス、パックされた状態で仕入れているケースもあります。仕入れ品かどうかは、パックに表示されている製造者の住所がスーパーの住所と同じかどうかで判断することができます。このような仕入れ品は、肉製品だけでなく刺身類まで広がってきています。
スーパーとしては、パック詰めされた牛肉を仕入れれば、肉をスライスする職人を雇う必要がなくなるため、人件費を削減できるのです。
あなたがおいしい牛肉を購入しようとしているスーパーでは、注文してから牛肉をスライスしてくれますか? それともうまみが出てしまった仕入れ品の牛肉を並べているだけですか。
ぜひ、「おいしいところをスライスして」と声をかけられる精肉店でおいしい肉を買ってみてください。そして、「この間の肉、おいしかったよ」と会話できるような店を見つけることが、おいしい物を食べる第一歩だと思います。
(文=河岸宏和/食品安全教育研究所代表)