願わくは、いくつになっても健康で元気にすごしたい。しかし、加齢による身体の衰えは避けられない。「疲れがとれにくくなった」など、漠然と体力の低下を感じている人も多いのではないだろうか。
生活習慣病やメタボリックシンドロームといった言葉が浸透し、一昔前にくらべると、働く世代の健康意識はずいぶん高まっている。実際に、食生活の改善や体力づくりに取り組む人も多い。
健康診断の検査値を見れば、自分の身体がどのような状態なのか、ある程度把握することができる。血管や肝臓などの各数値を見て、生活習慣を改めようと決意する人もいるだろう。ただ、一般的な健康診断では気づくことが難しい老化のサインもある。そのひとつが、「足の老化」だ。
足部には、縦方向に2つ、横方向に1つ、計3つの「アーチ」がある。足部のアーチは、身体を支える、バランスを保つ、衝撃を吸収するといった重要な役割を担っているが、そのアーチは加齢とともに崩れやすくなるという。
「生まれつきの個人差もありますが、年齢を重ねるにつれて、足部の骨と骨をつないでいる靱帯が伸びたり、すねと土踏まずをつなぐ後脛骨筋が衰えたりして足部のアーチは崩れやすくなります」(医療法人社団色空会・お茶の水整形外科 機能リハビリテーションクリニック院長の銅冶英雄医師)
そして、アーチが崩れた状態を放置していると、その影響は足部だけでなく、全身にまで及ぶ恐れがあるという。膝や股関節、腰、肩、首への衝撃が足のアーチでうまく吸収されず、全身に偏った力が加わりやすくなる。実際に、膝痛、股関節痛、腰痛、肩こり、首の痛みを訴える患者を診察すると、足部になんらかの異常が見つかるケースが多いそうだ。
老化のサイン
関節の痛みや肩こりは、年齢を重ねるほどに、誰もが抱え得る症状だ。ただ、ひどくなれば日常生活に支障をきたすこともある。また、痛みのために身体を動かすことが億劫になり、運動不足になって体力が衰えるといった負の連鎖を引き起こす恐れもある。
できることなら、そういった全身の症状が出る前に足の老化に気づきたいところだが、老化のサインを見逃している人は多いようだ。
「足部の衰えや変形が起こったからといって、すぐに自覚症状が現れるわけではありません。強い痛みや歩きにくさなどの日常での不具合が生じないかぎり、ほとんどの人は足部の異常を見過ごしてしまいます。足の痛みが長年続いていると、歩くときに痛いのは当たり前のことだと思っている人もいます」(同)
痛みが生じているということは、それはなんらかの異常があるというサインだ。たとえ軽い痛みでも、足部の異常や老化を疑ってみるべきかもしれない。
具体的には、足部のアーチが崩れている場合、「痛み」以外にどのようなサインが現れるのだろうか。
「足部の変形によって、歩行中に足部の特定の部位に強い圧力がかかれば、その部分の皮膚を保護するための反応として、角質層が厚くなってタコやウオノメなどができやすくなります。そのため、タコやウオノメは足部のアーチが崩れているサインだといえるでしょう」(同)
また、足部が変形すれば、「ぴったりだった靴が合わなくなった」「以前は問題なく履けていた靴で痛みを感じるようになった」ということも起こり得る。これもサインのひとつだ。
足部のアーチが崩れた状態を長く放置していると、骨や関節が変形した状態で固まり、手術が必要になることもある。同クリニックの「足と靴の外来」では、そうなる前に足に合わせたオーダーメイドの靴・インソール(中敷き)を処方することで、諸症状の改善に役立てているという。
年齢を重ねれば、あちこち痛くなってくるのは当たり前――。そう思って放置していると、「もっと早くケアしていればよかった」と後悔するような事態になりかねない。身体の一番下で、いつも体重を支え続けている足のアーチ。痛み、タコ、ウオノメなどのサインに気づいたら、早めにケアをすべきだろう。「オシャレは足元から」などとはよく言われるが、「健康は足元から」も肝に銘じておきたい。
(文=OFFICEーSANGA)
取材協力:医療法人社団色空会 お茶の水整形外科 機能リハビリテーションクリニック
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