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中谷明彦「クルマの匠(Professional)」

日産GT-R、ついにポルシェと同じ領域に達した…しかも価格は圧倒的に割安

文=中谷明彦/レーシングドライバー、自動車評論家

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 過去から現在までを含めて、間違いなく国産車最速モデルを名乗れる車が日産自動車GT-Rだ。現行のR35型は2007年に登場した第三世代と呼ばれている。

 このR35型はデビュー当初から速い車だった。3.8リッターV型6気筒ツインターボエンジンをフロントミドシップにマウントし、トランスミッションはリアアクスルマウントとするトランスアクスル方式を採用。さらに4輪を駆動するAWDシステムが480馬力を誇るパワーを有効に路面へと伝えていた。

 トランスミッションはツインクラッチのDCT(デュアルクラッチトランスミッション)を採用。2ペダルのイージードライブを可能としながら、シームレスな変速が強力な加速性能を支えていた。

 このGT-Rを初めて走らせたのは仙台ハイランド・レースウェイだった。GT-Rは独ニュルブルクリンクサーキット(通称・ニュル)での開発を主とし、国内では最もニュルに近い特徴を持つ仙台ハイランドにベースを置いていたのだ。

 初ドライブの印象は「抜群に速い」が「動きが鈍い」「足(サスペンション)が固く乗り心地が悪い」といったもの。800万円前後の価格設定は日産車としては極めて高額だったが、ライバルと目されたポルシェ911より数百万円安く、スペックと速さを知ってからは「安い!」と感じていた。

 それから年々進化する開発手法が取られ、今年(2019年)11月に2020モデルが披露されテストドライブする機会が与えられたのだ。

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軽量化により格段に速さを増した

 テストステージは千葉県の袖ヶ浦フォレスト・レースウェイだ。西仙台ハイランドは東日本大震災で被災し、現在は廃止されてしまった。テストベッドを失いながらもGT-Rは国内や世界中のレースシーンで大活躍し、さまざまなフィードバックを行って基本構成を変えることなく高性能化を果たしてきていた。

 2020モデルの特徴は、さらなる速さの追求と快適性・質感の向上にある。速さは軽量化とエンジン性能の向上、カーボンブレーキを装備させてブレーキ性能を高めることなどで達せられたという。その究極のモデルがGT-R・ニスモであり、今回の走行テストで最も感銘を受けたモデルである。

 ニスモ(NISMO)は「日産モータースポーツ」の略から生まれた造語で、その名の通り日産のモータースポーツを全体的に司る専門的な会社である。GT-R・ニスモはそんなニスモがチューニングを手がけた本格的なモデルであり、長年の実績から実効性の高いチューニングが厳選され採用されている。

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 第一に優先されたのは軽量化だ。まず、エンジンフードをカーボン製にして2kg軽量化。フロントバンパーやフロント左右フェンダーもカーボン製にして8.5kg、ルーフパネルのカーボン化で4kg、リアバンパーとリアトランクリッドもカーボン化して2.5kgの軽量化を果たしている。また、チタンマフラーを採用し4.5kgも軽量化しつつ、排気効率も高めている。

 最も注目したのはブレーキだ。ついにブレンボ製のカーボンブレーキを採用し、フロントには6ポッドのモノブロックキャリパーを装着した。これでバネ下重量は大幅に軽減されたばかりか、1600℃の高温にも耐える熱フェード性をレーシングカー並みに高めることに成功している。

 600馬力にまでパワーアップされたエンジン性能と相まって、軽量化により格段に速さを増しているはずだ。

運動性能も進化

 コースインしてすぐに感じたのは、身のこなしが大幅に向上していることだ。コーナリングではノーズが軽くインを向き、フロントエンドからリアエンドまで車体から一体感が得られている。アジリティに優れ、ライントレースが正確で車体姿勢も安定している。ストレートの短い袖ヶ浦では速い車でも直線到達最高スピードは180km/h前後だが、2020GT-Rニスモはメーター読みながら200km/hをオーバーした。

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 タイヤの進化も凄い。サイズは同じながらタイヤ切断面形状(プロファイル)とトレッドパターンをそれぞれ見直し、接地面積を11%も拡大しコーナリングフォース(グリップ力)を5%高めている。もともと高性能だったタイヤがさらに1割強化されたのだから、加速・旋回・減速のすべてのシーンで効果が発揮されるわけだ。

 これらの相乗効果でドライブフィールは軽快になり、運動性能が高まって速さも増した。2km程度のサーキットでラップタイムは2秒以上速くなっている!

 この速さと扱い安さは世界トップレベル。ポルシェの最速モデルと比べても遜色はなく、2020モデルは世界の競合車に対し胸を張れる性能域に達していることが確認できた。

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 とはいえ弱点がないわけではない。基本的なコンポーネンツに変化がないので、たとえば6速DCTのトランスミッションは欧米の競合が8速、9速と多段化しているのに対し、燃費やドライバビリティの面で不利になる。

 また、高価なカーボン製パーツの大幅採用でGT-Rニスモの販売価格は2420万円にまで高まった。それでもポルシェやフェラーリ、ランボルギーニといった同クラスの競合モデルよりは割安なのだが、購入層は大きく絞られてくることになる。標準グレードは1000万円台から設定があるが、いずれにしても庶民の手に届く範疇ではない。

 そして性能を発揮できる場所が限られてくることも弱点だ。もはや一般道では性能の断片しか確かめることはできない。サーキットを走ることが国内では前提となり、一般的なドライバーにとってはハードルが高く感じられるだろう。

 欧米のスーパースポーツカーメーカーが開催しているようなサーキット走行イベントなどを、国内各地で積極的に開催してほしいところだ。

(文=中谷明彦/レーシングドライバー、自動車評論家)

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中谷明彦/レーシングドライバー、自動車評論家

中谷明彦/レーシングドライバー、自動車評論家

武蔵工業大学工学部機械工学科卒。15歳でカートを始め大学在学中にフォーミュラカーデビュー。卒業後はカートップ誌編集部員として働き1985年にプロ・レーサーへ転向。1988年全日本F3選手権でチャンピオンを獲得し、以降全ての全日本選手権、全ての国内サーキットで優勝を納める。三菱自動車ランサー・エボリュ−ションV〜Xの開発に寄与し、スーパー耐久レースではランエボを駆って50勝を記録。5回の年間覇者となる。バサーストやマカオGP、ル・マン24時間レースなど海外レース活動経験も豊富だ。1997年にドライビング理論アカデミー「中谷塾」を開設し、佐藤琢磨(第一期生)を輩出した。ドライビングやメカニズムの理論に精通。近年は中国メディアでも活動し、知名度が高い。2018年5月に慢性骨髄性白血病を発症したが、抗がん剤治療を受けつつ活動を継続。日本の代表的名ドライバーとして「Legend Racing Drivers Club
」のメンバーでもある。

Twitter:@nakaya_juku

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