肉の美味しい食べ方のひとつとしてすっかり定着した熟成肉に次いで、ジワジワと広がりを見せているのがグラスフェッドビーフだ。その名の通り牧草肥育で育てた牛のこと。日本やアメリカでは大麦やトウモロコシ、フスマなどの穀物を食べさせて育てる穀物肥育牛が主体で、オーストラリアやニュージーランドでは牧草肥育が主に行われている。
餌で味はどう変わる?
穀物肥育で育った牛の肉の特徴は、赤身と脂肪が交じり合った霜降り肉で、やわらかく、肉の臭みが少ない。これまで日本人が好んできた牛肉の特徴を持つ肉だ。一方、グラスフェッドで育った牛は、赤身が多く、硬く、独特の臭いがある。このため、日本では牧草肥育牛は「美味しくない肉」とされてきた。
舌の上でとろけるような霜降り肉は、高カロリーの穀物飼料を与え、あまり運動させず肥満体に育てたメタボ牛の肉だ。穀物肥育にするとビタミンAが不足してしまうのだが、これも肉を霜降りにする秘訣だ。しかし、ビタミンA不足が原因で視覚障害になってしまう牛もいるため、最近ではこうした不健康な肥育方法を見直す動きも出てきている。
対するグラスフェッドは、牧草地で牧草を食べ、放牧によりよく運動した健康的な牛だ。ビタミンAのもととなるカロテンを豊富に含んだ牧草を食べて育つので、もちろんビタミンAが不足することもない。しかし、健康的な牛なだけに、脂肪は少なく赤身が多く、運動しているため筋肉が発達して肉質が硬くなる。
栄養価はどう違う?
グラスフェッドビーフは、穀物肥育の牛に比べてオメガ3系脂肪酸やビタミンA、ビタミンE、運動能力の向上にかかわる栄養成分カルノシンなどが豊富に含まれる。牧草を食べていることによって、穀物を食べている牛より、牧草が持つ栄養的な特徴が反映されるのだ。脂肪の色が穀物肥育のものに比べ黄色いが、これは牧草に含まれるカロテン色素によるものだ。
また、甘味やうま味の成分もグラスフェッドビーフのほうが多く含まれる。食べているものによって、当然のことながら栄養的特性は変わってくる。これは私たちにも当てはまることで、食べているものが私たちのからだをつくっているのだ。