元の顔がわからないほど腫れる…チャドクガ幼虫被害が大量発生?毒針毛が飛散で衣類付着
チャドクガの幼虫による被害が深刻化しています。HPで大量発生を知らせる行政もあるほどです。ひとたび刺されると、「神経を直撃するかゆみ」「元の顔がわからなくなるぐらい腫れ上がる」などの症状が出る場合もあり、侮れないようです。しかし、その症状について医師や昆虫愛好家に調査したところ、「発熱する。アナフィラキシーショックのような症状を引き起こした患者もいる」「発熱しないし、ましてやアナフィラキシーショックなど起こすはずもない」などと見解はバラバラです。
そこで今回は、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所 森林研究部門 森林昆虫研究領域 昆虫生態研究室室長の北島博先生にチャドクガの生態を徹底解説してもらいました。
4~6月および7~9月が発生時期
――今年は習志野市などの千葉県北西部や他県の一部の市町村でも被害が多発していると、SNS上で報告されています。チャドクガの幼虫が大量発生する理由は、なんなのでしょうか?
北島 実は詳しいことはわかっていません。というのも、人の往来がある場所でチャドクガが発生すると人的被害が起こる可能性があり、毛虫の発生数に関係なく大量発生と認識される可能性もないとはいえないからです。チャドクガの幼虫(以下、チャドクガ)といっても、わからないかもしれませんが、本州から九州に幅広く生息し、オレンジのボディに黒い斑点が特徴で、体長は約2~5センチまで成長するといわれています。
――過去に特定の地域に多発したことはありますか?
北島 これまでに聞いたことはありません。ただし、同じ樹木でも年によって発生数が多く見られたり、少なかったりすることはあるようです。森林総合研究所内のツバキでも同じですね。
――チャドクガはツバキに発生するのですか?
北島 その名の通り、“茶の木”に発生することから命名されたのですが、茶の木はツバキ科になります。ほかに同じツバキ科であるツバキやサザンカをエサとしていて、これら3種では、いずれもチャドクガを目にすることができます。地域によって多少のずれはありますが、春と秋の年に2回発生し、4~6月および7~9月が発生時期です。
――まさに今がシーズンですね。厚生労働省や複数の皮膚科学会に確認したところ、チャドクガに絞った被害数のデータは確認できないとのことです。
北島 被害数ではなく相談件数を自治体ごとに取りまとめて発表しています。今年のデータはまだ未公表ですが、東京都福祉保健局では表のように公表しています。平成20年のチャドクガの相談件数が突出していますが、相談内容の詳細は公表されていませんので、突出した理由もわかりません。あくまでも相談件数なので、実際の被害数と必ずしも一致してはいないと推測しています。
アナフィラキシーとの関係は?
――被害に遭うと、強烈なかゆみ、ただれを訴える人が多いようです。ただ、昆虫愛好家のなかには、チャドクガは症状は出ても毒はないという人もいますが?
北島 いえいえ、チャドクガには、背面にある毒針毛叢生部(どくしんもうそうせいぶ)と呼ばれる部分に、毒性のある針の形状をした毒針毛がまとまって生えています。近縁のドクガは毒針毛が中空で、そこに毒性分があるとされていますが、チャドクガも形状的にはドクガと同じタイプになります。毒針毛は小さい毛虫では0.05mmから0.1mm程度、大きくなると0.15mmから0.2mm程度に成長しますが、とても小さく肉眼では見ることができません。
――チャドクガの毒の成分は?
北島 毒性分としては、アレルギーを起こすヒスタミンが含まれているとされていますが、明確にはわかっておりません。『Dr.夏秋の臨床図鑑 虫と皮膚炎』(著:夏秋優/学研メディカル秀潤社 )によれば、「チャドクガによる皮膚炎は、毒針毛の物理的刺激や化学的刺激によるものではなく、毒針毛が刺入されて中の毒液が皮膚に侵入し、その毒性分に対する感作が成立することによって生じる」とあります。感作が成立というのは、簡単にいえば、毒性分に対してかぶれるなどの反応をする体質になるということです。反応の程度は個々人で異なり、また体の大部分に皮膚炎の症状が出ると発熱することはあるようです。
――発熱だけではなく、「吐き気や胸が苦しくなるというようなアナフィラキシーに似た症状を起こした患者もいる」という医師もいます。アナフィラキシーとの関係はどうですか?
北島 現時点では、チャドクガによる被害が他のアレルギーと相乗して酷くなるかどうかは、わかりません。ですので、まったく起こらないと明言をすることはできません。
――蛹から成虫に成長する過程で毒針毛はなくなりますか?
北島 成長してもチャドクガの毒針毛が付着しているので、被害を及ぼします。チャドクガは数回前後の脱皮をして成虫になりますが、脱皮殻に毒針毛が付着していることもあります。毛虫に直接触れることはもちろんですが、葉に付着した毒針毛に触れても皮膚炎を発症します。土中のマユや卵の表面にも毒針毛が付着しているので、これらに触れても皮膚炎を発症します。
――3メートルほど離れたら刺されないという造園家もいますが、本当でしょうか?
北島 毒針毛は幼虫の体から離れやすく、先ほど申し上げたように非常に小さく軽いため、風で飛ばされます。3メートル離れれば毒針毛が飛んでこないとは言い切れないと思います。また、飛ばされた毒針毛が皮膚に直接ついた場合はもちろん、衣類や布団に付着した毒針毛を触っても皮膚炎を発症します。毒針毛の本数も最初は700本程度ですが、チャドクガがすっかり成長したころには40万から50万本程度と多くなります。
――想像するだけでもぞっとします。チャドクガは飛べるんですか?
北島 毛虫は樹上の枝や葉の上を歩いて移動しますが、飛ぶことはありません。10匹前後から約30匹単位で集団を組み、葉を食べる習性があります。集団がばらけたり、集団の構成数が少ないと発育が悪くなることが知られています。このため、個々の幼虫が積極的に移動することは少ないと考えられます。
毒針毛の毒性分は残存する
――毛虫が死んだら、毒も消滅しますか?
北島 死んでしまった毛虫に残っている毒針毛も、毛虫から離れた毒針毛も、その毒性分は消えません。ただ、残存時間は不明です。チャドクガは卵で越冬しますが、冬季の剪定時に卵の表面に付着した毒針毛でかぶれたという話も聞きますので、場合によっては数カ月という長い期間、毒性分は残ることもあると思われます。
――毒針毛が付着した衣類を洗濯したり、アイロンをかけると毒性はなくなりますか?
北島 衣類などの洗濯は、すべての毒針毛が取り除けるわけでないとされている場合もありますが、効果的な対処法であることは間違いありません。念のために、他の衣類とは別に洗濯されるほうが良いかと思います。アイロンをかければ毒性がなくなるかどうかは、毒性分が未解明のため、詳しい情報はわかりません。
――被害に遭ったときは、どんな対応をすればいいでしょうか?
北島 毛虫に触れたと思ったら、粘着テープなどで毒針毛を取り除くことが重要です。毒針毛は非常に小さいので粘着面に毒針毛が付着しているのを肉眼で確認することはできませんが、効果はあるという話は聞きます。患部を水で流す、服を着替える、シャワーを浴びるなども重要な対応です。皮膚炎が発症する部分を広げないためにも、炎症が出始めたら早めに対処することが肝要です。
――かゆみ止めの市販薬を塗ればいいですか?
北島 私は臨床医ではありませんので、昆虫生態を研究している観点から申し上げますと、炎症が出た場合は抗ヒスタミン剤を塗布するのが有効のようです。ただし、自己判断せず、医師の診断を仰ぎ、抗ヒスタミン剤や抗ヒスタミンの内服薬を処方していただきたいと思います。
予防策は?
――予防策はどうすればいいでしょうか?
北島 庭木などであれば、毛虫が発生する4月~6月および7月~9月に見回って、チャドクガが小さく集団でいるうちに枝ごと切り取って、毒針毛が飛散しないようにポリ袋などへ入れて処分してください。チャドクガの殺虫であれば、農薬を用いた消毒も可能です。ただし、死亡後のチャドクガの毒針毛に注意してください。消毒を行なう際、防御服ではありませんが、帽子などを頭に被ったり、アイガードやマスク、手袋を着用し、胸元を開けずに長袖、長ズボンなどの服装で全身をガードすることをお勧めします。同時に消毒後の片付けも忘れずに行なってください。公道や公園などで毛虫が発生しているのを見付けた時は、すぐに市区町村に連絡をしてください。
――消毒薬はどれが有効ですか?
北島 害虫駆除のための農薬(殺虫剤)は、対象となる樹種や害虫類が定められています。ホームセンターなどで発売されている農薬では、ラベルや取扱説明書にチャドクガと記載があれば問題なく使用ができます。毛虫が小さいほど、農薬の効き目が大きいことが知られています。
――人の予防は、どうすれば?
北島 敏感な方はツバキの近くを歩いただけで皮膚炎を発症すると聞きます。被害を未然に防ぐにはツバキ科の木には近づかないことは重要だと思います。すべての毛虫が毒を持つわけではありませんし、イラガ類は毒液を内蔵した毒のとげ(毒棘:どくきょく)を持ちます。いずれにせよ、正しい情報に基づいて予防に努めていただきたいと思います。
昨年、消毒翌日の樹木の下で草むしりをして小学生47人が集団被害にあった例もあります。相続して空き家になっている庭木を放置した結果、大量にチャドクガが発生し、近隣に大きな迷惑をかけた実例もあります。
たかが毛虫、されど毛虫。新型コロナウイルスではありませんが、まさにチャドクガの第2波発生のシーズンの今、第三者への迷惑防止のためにも、早めの消毒をお忘れなく。
(文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表)