閉鎖的なSNS内で拡散するフェイク情報
「コロナには26~27度のお湯が効く、日光も効く」
新型コロナウイルスが蔓延し始めた今年の3月頃、友人から、グループLINEを通じてこんな情報が入りました。情報源は、「武漢研究所に派遣されている、友人のアメリカ人ドクター〇〇の情報で、△△病院の看護師さんたちで共有しています」と、まことしやかなもの。友人が介護施設で働く従姉妹から聞いた情報ということです。
他の友人も私も、単純に「いいことを教えてもらった」と、その時は思ったのでしたが、数週間後には「そんな事実はない」ことが明白に。その時、すでに同じような情報が日本中に溢れていました。
このような友人同士を結びつける閉鎖的なSNSコミュニティー内でのフェイク情報は、表に出ない分、本物と勘違いしやすい傾向にあります。
フェイクニュースは「不安」「怒り」「善意」から生まれる
フェイクニュースが席巻する背景には、人々の「不安」「怒り」「善意」が絡むといわれています。得体の知れない未知の新型コロナウイルスに対する「不安」、事態が収まらないことへの「怒り」、そして少しでも助けになる情報を伝えたいという「善意」。
コロナ禍に限らず、大規模災害のときは必ず、「フェイクニュース」「デマ」が飛び交うと思ってください。
熊本地震では「動物園からライオンが放たれた」と画像つきの情報が拡散されました。動物園では問い合わせの電話が鳴り続けたということです。市内をうろつくライオンの画像は衝撃的で、瞬時に拡散されました。
しかし、写真を冷静にみてみれば、「異国の信号機?」「道路表示が英語?」「同じような目撃写真が多数あがってもおかしくないのに、これ1枚だけ?」「ニュースにならないのはなぜ?」などと数々の疑問が湧いてきます。
結局、写真は南アフリカで撮られたもので、訓練を受けたライオンを映画の撮影の合間に訓練士が撮った1枚でした。
拡散された理由としては、「ライオンに気をつけて」とリツイートした善意の人以上に、「面白ければ、嘘でもいい」という無責任な人が多かったことがあげられるのではないでしょうか。フェイクニュースを流した20歳の青年は、その後、偽計業務妨害の疑いで逮捕されるという結末になりました。
情報発信には、責任が伴います。そして、誰もが「騙される側」になるだけでなく、「デマを拡散する加害者」になってしまう可能性も忘れてはなりません。
「不安」が「理性」を打ち負かす
マスク不足から「紙で出来ているトイレットペーパーも不足する」との噂がきっかけで起きた品切れ騒ぎは、世界中で起きました。あるアンケート調査(※1)によると、「トイレットペーパーなどが不足するという情報はデマだと知っているか」との質問に、91.5%が「知っている」と回答。さらに「今回の品薄・品切状態は買い占め行為が引き起こしていると言われていることを知っているか」との質問に、90.6%もの人が「知っている」と回答しています。
理屈ではほとんどの人がわかっていても「万一、本当になくなってしまったら」という不安を、理性で打ち消すことができず、買いだめ行動につながりました。
では、フェイクニュースに惑わされないようにするには、どんな注意が必要でしょうか。
(1)見出しの過激さ、違和感に敏感になる
読んでみて、聞いてみて、「なんか変」と感じたら、一度立ち止まって冷静になりましょう。興奮して、リツイートしたり、「いいね!」を押したり、拡散しないようにしましょう。誰が言っているか? 出典はどこ? いつ発信されたもの? 攻撃を目的にしている? リプライ(返信)にはどんな意見があるのか? を確認し、信頼できる記事なのか、冷静に考えてみましょう。
(2)他のメディアの記事を読んでみる
同じ事柄を扱った記事でも、他のメディア、公的情報と事実関係が食い違うなら嘘が含まれている可能性があります。
多くの人々が不安を抱いている現代、そして災害時に、深刻な事態を生まないためにも、日ごろから考えておくことが大事です。
(文=草野かおる/イラストレーター・防災士)