ブランド総合研究所が毎年、都道府県の魅力度ランキングというものを発表している。北海道などが常に上位を占め、筆者の出身地・茨城県は4年連続最下位だ。出身地を「最下位」と言われても、実際に住んだ人間にとっては「そんなに悪い県なのか?」とクビをひねってしまう。
茨城にも日本一はある。京浜に近いためか工場立地面積はここ数年1位、農業ではレンコン、白菜、メロンの生産も日本一。県民所得も8位。水も空気もおいしいし、住めば都だ。しかし、それでも魅力度がないというのは、観光的な意味合いか。確かに、他県と比べるといまひとつエッジが効かない。それでも、「今後の伸びしろは日本一」と妙に納得していた。
そんな折、茨城は農業以外に、ひょっとして日本一のものがあるのではと思える出来事が続いた。
そのひとつ、相撲力士・稀勢の里の初優勝と横綱昇進だ。黙々と稽古し、口下手、愚直、他人に何か言われても、なかなか右から左に切り返すのが難しい人柄、笑うのもぎごちない。この稀勢の里のような人は、まさに茨城県人に多い。
この稀勢の里と同じタイミングで『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎)で直木賞を受賞したのは、恩田陸さん。仙台生まれだが青春時代の中学から茨城で高校は水戸一高だ。05年の本屋大賞の『夜のピクニック』(新潮社)は高校時代の体験から生まれた作品だ。
昨秋、アマで日本女子オープンを制した女子ゴルファーの畑岡奈紗さん。
こう見てくると、世の中の評価は人によってまちまちだが、「桜田門外の変」「五・一五事件」の当事者にも水戸藩、茨城県人が多かった。さらには水戸光圀、徳川斉昭、水戸生まれではないが幼少期に水戸で教育された斉昭の息子、最後の徳川将軍である徳川慶喜。
歴史上の人物だけではピンとこなければ、タレントの鈴木奈々、渡辺直美。梅宮辰夫は一時、茨城県に転居し中学時代を過ごす。『仁義なき戦い』シリーズで知られる深作欣二監督も茨大附属中から水戸一高を経て日本大学芸術学部へ入学。そして2016年、サッカーのFIFAクラブワールドカップ決勝戦で欧州王者レアル・マドリードに健闘し世界を驚かせた鹿島アントラーズ。
以上でみてきたように、茨城は魅力度は全国最低だが、その魅力はのんびりした風土と人ではないか。魅力度最低の茨城が、今年の秋は46位になればいいが。いや47位でもいいか。
(文=田村建雄/ジャーナリスト)